没収対象としての犯罪行為の「供用物件」の意義と認定方法

没収対象としての犯罪行為の「供用物件」の意義と認定方法

【事実の概要】


被告人は、某日、某所において、強姦未遂罪(件数は不詳)、強姦罪1件および強制わいせつ罪3件を犯し、その様子を被害者に気付かれないようデジタルカビデオセット4本(以下「本件デジタルビデオカセット」という。)に録画した。
原審福岡高裁宮崎支部は、平成29年2月23日、被告人に対して、強姦未遂罪、強姦罪、強制わいせつ罪の成立を認め、本件デジタルカセットを没収する旨の言渡しをした第1判決を是認する判決を言い渡した。
 これに対して弁護人および被告人が上告したところ、弁護人・被告人の上告趣意は、いずれも事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらないと述べて、上告を棄却した。その上で、原判決およびその是認する第1審判決の認定並びに記録に基づいて、所論に鑑み、職権で、「刑法19条1項2号、2項本文により、本件デジタルビデオカセットを没収する旨の言渡しをした第1審判決を是認した原判決は、正当である。」と判断した。その理由は、以下の「裁判所の判断」に示された。
 [最1小決平成30・6・26裁判所HP850/087850(上告棄却)]

【争点】


 没収対象の「供用物件」の意義と認定方法。

【裁判所の判断】


 被告人は、本件強姦1件及び強制わいせつ3件の犯行の様子を被害者に気付かれないように撮影しデジタルビデオカセット4本(以下「本件デジタルビデオカセット」という。)に録画したところ、被告がこのような隠し撮りをしたのは、被害者にそれぞれの犯行の様子を撮影録画したことを知らせて、捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ、刑事責任の追及を免れようとしたためであると認められる。以上の事実関係によれば、本件デジタルビデオカセットは、刑法19条1項2項にいう「犯罪行為の用に供した物」に該当し、これを没収できると解するのが相当である。

【解説】


 刑法では、死刑、懲役、罰金などの主刑が科される罪について、付加刑として没収を科すことが認められている。没収されるのは、犯罪行為を組成した物(19条①Ⅰ:組成物件)、犯罪行為の用に供し、または供しようとした物(同Ⅱ:供用物件)、そして犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物(同Ⅲ:生成物件)と定められている。本件では、強姦1件及び強制わいせつ3件の犯行の様子を撮影した4本のデジタルビデオカセットが「犯罪行為の用に供しようとした物」にあたると判断した第1審判決を是認した原審の判断が維持された。
刑法19条1項2号の「犯罪行為の用に供した物」とは、犯罪の実行に実際に使用した物をいい、「犯罪行為の用に供しようとした物」とは、犯罪の実行に使用するために用意したが、実際には使用しなかった物をいう。強制性交等罪(強姦罪)や強制わいせつ罪の実行に際して、脅迫のために使用した物あるいは準備したが使用しなかった物は、脅迫と直接的な関連性を有していることから、供用物件にあたることは明らかである。また判例では、実行の着手前に実行行為を容易にするために行われた行為に使用された物、例えば窃盗犯が住居侵入の際に使用された鉄棒なども窃盗罪の共用物件にあたると判断されている。さらには、実行行為の終了後に逃走を容易にし、逮捕を免れ、その他犯罪の成果を確保するために行われた行為に使用された物も供用物件にあたると解されている。下級審では、強盗強姦罪等の事案で、被告人が姦淫の様子をビデオカメラで撮影し、被害届を出さないよう被害者に口止めし、被害届を出せば画像をインターネットで流す旨告知したことを理由にビデオテープを供用物件として没収する判断を示したものがある(東高判平22・6・3判タ1340号282頁)。
没収は主刑に付随して科される刑罰の一種であるので、没収の対象は、主刑が科された犯罪の実行行為やそれを促進する作用を有した行為に使用された物に限定すべきである。しかし、裁判例や学説の多くは、没収に保安処分的な性質があることを理由に実行行為の終了後に行われた行為の使用された物について、再犯のおそれがある場合には予防的観点から没収を認める。前掲東高判平22年の判断にその傾向が表れているが、保安処分的性質があるとしても、それは強盗強姦後に別に行われた強要罪の手段に使用された物件として扱えば足り、強盗強姦罪に関連づける必要はない。
被告人は、強姦等の犯行の様子を被害者に気付かれないよう撮影したが、撮影と録画は強姦等の手段行為の脅迫に含まれず、また被害者に被害届を出さないよう脅迫したわけでもない。従って、本件デジタルビデオカセットは没収の対象にはなりえないはすである。被告人に強要目的があったことを理由に供用物件に当たると認定されているが、それは従来の認定方法を柔軟化するものであり、妥当性につき疑問が残る。

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