被害者が解放後に主体的に行う能動的行動に向けられた暴行・脅迫の程度と強盗罪の成否

被害者が解放後に主体的に行う能動的行動に向けられた暴行・脅迫の程度と強盗罪の成否

【事実の概要】
 被告人は、A、B及びCらと共謀の上、被告人、A及びBが被害者の顔面等を手拳で多数回殴打して同人に加療6週間を要する傷害を負わせるとともに、A及びBらが被害者に借金の肩代わりを要求し、それに応じなければ更に同様の危害を加えかねない勢いを示して被害者を畏怖させ、被害者を解放した後日、被害者に96万円をEに支払わせて、CのEに対する債務を免れさせようとした。しかし、被害者が解放後に警察に申告したため目的を遂げなかった。検察官は強盗致傷罪で起訴したが、原審は傷害罪と恐喝未遂罪の成立を認めた。検察官が控訴したところ、控訴審は、被害者は暴行・脅迫を加えられた現場で財物の交付を求められたのではなく、解放後に主体的にCの借金全額を肩代わりしてCに財産上の利益を得させるという能動的行動が求められたという事実を踏まえて、被告人らの暴行・脅迫がその能動的行動に向けられたものとして被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであるというためには、現場で直ちに財物の交付を求める場合よりも強度な暴行・脅迫でなければならないという基準に基づいて判示して、原審の判断を維持した。

【争点】
 被害者が解放後に主体的に行う能動的行動に向けられた暴行・脅迫の程度と強盗罪の成否。

【裁判所の判断】
 被告人らが被害者に暴行、脅迫を加えたのは、C及びAに対して相当に優位な立場にある被害者が、Cに対する借金の取立とそれに関わる紛議のため出向いてきたのに対抗すると共に、被害者に紹介料の取得を認めさせようとしたからであり、Aについては、さらに、被害者からCの債務の肩代わりを求められるのにも対抗するためであったということができる。そして、被告人らが本格的に被害者に対してCの借金全額を肩代わりして支払うよう求めたのは、激しい暴行、脅迫が収束した後である可能性があり、それからは、被害者がそれに納得できないと発言しても、それまでと同様の苛烈な暴行、脅迫が再現されてはいない。被告人らは、被害者に対し、暴行、脅迫の再現を匂わせながら、話し合いの状態を続けてきたにすぎず、被害者も、Cの借金全額を肩代わりして支払おうとはしていない。……被告人らと被害者との関係、被告人らが被害者に暴行、脅迫を加えるに至った動機及び経緯、被害者がCの借金全額の肩代わりを求められた経緯、その後の状況に徴すると、被害者が本格的にCの借金全額の肩代わりを求められた時点においては、被告人らがそれまでに被害者に加えた暴行、脅迫の影響は、被害者が主体的にCの借金全額を肩代わりしてEに支払うという能動的行動に向けられたものとして、その反抗を困難にする程度にとどまり、反抗を抑圧するに足りる程度のものとは認められない余地がある。

【解説】


 強盗罪は暴行・脅迫を手段として財物を強取ないし利益を取得する行為であり、その手段行為としての暴行・脅迫は、相手方の反抗を抑圧するに足る程度のものでなければならない。反抗抑圧性の存否は、一般人を標準にしつつ、犯人と被害者との関係(性別、年齢、体力等)、犯行時の客観的状況(犯行の時刻、場所その他周囲の状況、凶器使用の有無)などを総合的に考慮して客観的に評価されなければならないと解されている。
例えば、暴行・脅迫後に現場で直ちに財物を交付させ、または暴行・脅迫後に被害者に現場付近の銀行のATMに行かせ、監視下において口座に入金させるような場合、暴行・脅迫と財物取得との間に時間的・場所的な間隔がないため、当該暴行・脅迫が現場において被害者に対して強い物理的・心理的影響を及ぼしているならば、当該暴行・脅迫は被害者の反抗を抑圧していたと認定できる。これに対して、暴行・脅迫後に被害者を解放し、その後口座に入金させるなどの行動を行わせることを目的として暴行・脅迫を加える場合、それと財物取得との間に時間的・場所的な間隔があり、解放後に被害者が翻意して警察に通報するなどの行動に出る余地があるため、暴行・脅迫が被害者の反抗を抑圧する程度のものであったといえるかは明らかではない。暴行・脅迫の反抗抑圧の存否と程度を認定するためには、暴行・脅迫が現場において被害者に及ぼした物理的・心理的影響だけでなく、それが解放後においても持続する程度のものであったことが重要な要素になると思われる。同一の暴行・脅迫であっても、財物取得との間の時間的・場所的な間隔がなければ、財物取得に至る危険性があると言えても、時間的・場所的な間隔が予定されている場合、その危険性は異なって評価される余地があるように思われる。
本件の事案で問題になったように、暴行・脅迫と財物取得とに時間的・場所的な間隔が予定されている場合、そのような事情は犯行時の客観的状況に含めて、暴行・脅迫の反抗抑圧性を判断する一要素として位置づける必要があると思われる。

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