刑事判例資料集を解説「窃盗罪,委託物横領,占有離脱物横領,不法領得の意思,etc.」法学部生の試験対策にも活用可能

窃盗罪の保護法益(最決平成元・7・7刑集43巻7号607頁)

【事実の概要】
 被告人は、客に対して、客が所有する自動車の時価の2分の1ないし10分の1程度の融資金額を提示し、買戻し約款付き自動車販売契約書に署名捺印させて、金銭を融資した。契約書によれば、客(金銭の借主)が自動車を融資金額で被告人(貸主)に売り渡し、被告人にその所有権と占有権を移転し、返済期限にあたる買戻期限までに融資金額に一定の利息を付けた金額を支払って買戻権を行使することができるが、それをしない場合には、被告人が自動車を任意に処分できるとされていた。ただし、契約当事者の間では、客(借主)は契約後も自動車を保管し、利用できることが当然の前提とされていた。客(借主)が返済期限に遅れれば、被告人(貸主)は直ちに自動車を引き上げ転売する意図があったが、それを隠し、客には契約書の写しを渡さなかった。

 被告人は、返済期限が過ぎた翌日未明または数日中に、客の保管場所に赴き、密かに作成したスペアキーを利用して、客に断らずに、自動車を引き揚げ、数日中に転売しようとした。

 第1審理、原判決ともに、窃盗罪(刑法235条)の成立を認めた。原判決は、契約が有効であるとしても、客(借主)の買戻権喪失事由が発生しているは疑問があり、客による自動車の占有は、法律の保護に値する利益を有していたと述べた。これに対して、被告人が上告した。

【争点】
 窃盗罪の保護法益は、財物の所有権か、それとも財物の占有か。財物の所有権が保護法益であるならば、返済期限期限が過ぎた後、貸主が自動車を引き揚げる行為を行っても、それは所有権が及んでいる自動車を引き上げただけであり、所有権を侵害する行為ではなく、窃盗罪が成立することはありえない(本権説)。これに対して、窃盗罪の保護法益が財物の占有それ自体であると解するならば、借主に所有権がなくても、自動車を占有している状態がある以上、その占有は保護され、たとえ貸主に自動車の所有権があっても、借主の自動車を引き揚げる行為は、その占有の侵害であり、窃盗罪が成立することになる(占有説)。

 では、窃盗罪の保護法益は何か。所有権か、それとも占有か。

【裁判所の判断】
 上告棄却。
 被告人が自動車を引き揚げた時点においては、自動車は借主の事実上の支配内にあったことは明らかであるから、かりに被告人にその所有権があったとしても、被告人の引揚行為は、刑法242条にいう他人の占有に属する物を窃取したものとして窃盗罪を構成するというべきであり、かつ、その行為は、社会通念上借主に住人を求める限度を超えた違法なものというほかない。従って、これを同旨の原判決の判断は妥当である。

【解説】
 本件で最高裁は、窃盗罪の保護法益が「財物に対する占有」であると判断したと理解されている。ただし、本件の借主(被害者)による自動車の占有が保護に値し、その侵害が窃盗罪として処罰しえても、財物に対するあらゆる占有が、常に窃盗罪の保護法益として保護されるとまで言い切ったわけではない。この点に注意する必要がある。

 例えば、窃盗犯が他人から財物を窃取した直後に、被害者がそれを奪い返す場合、被害者は窃盗犯による財物の占有を侵害することによって奪い返すことになるが、その財物の占有が保護に値しないことは明らかである。もしも窃盗犯の財物の占有も保護に値するならば、被害者が奪い返す行為は「窃盗罪」になるはずであり、窃盗犯がそれを防ぐために、被害者に暴行を加える行為は正当防衛にあたるはずである。しかし、刑法238条は、窃盗犯が財物を奪い返そうとする窃盗の被害者に対して暴行を加えた場合、より重い強盗罪として重く扱うことを定めている。これは、窃盗犯の暴行が違法であるということ、つまり、被害者が奪い返す行為は、「占有侵害」であっても、適法で あるということを前提にしている。

 このように考えると、財物の占有のなかにも、窃盗罪によって保護される占有とそうでない占有とがあることになり、その区別基準が重要になる。学説では、占有説を修正して、一定の理由のある占有、平穏な占有が保護に値するとする「平穏占有説」が主張されている。また、本権説の側からは、保護すべき対象を所有権を基本に据えながら、平穏な占有にまで拡大する「修正本権説」が主張されている。

窃盗か委託物横領か(東京高判昭和59・10・30刑月16巻9=10号679頁)

【事実の概要】
 同僚Aは、は弁当を買いに2百数十メートルほど離れた近所のスーパーに向かおうとしたところ、17万4400円ほど入った新聞代金の集金袋を保管するよう被告人に委託した。それは、Aが事務所責任者のSに引き渡すべき金であった。その集金袋は、チャックが閉まっておらず、施錠もされていなかった。しかし、上蓋が閉まっていて、その止め金がされていた。被告人は、そこから17万3200円を抜き取り、事務所から出た。Aは30分後に戻ってきた。

 第1審および原審は、(常習累犯)窃盗罪の成立を認め、懲役3年に処した。

【争点】
 被告人が、同僚Aから上蓋がされ、止め金が施された集金袋を預かった場合、その集金袋は被告人によよって占有されているが、その内容物である金銭もまた被告人によって占有されているといえるか。被告人がAから集金袋を保管を委託された場合、集金袋だけでなく、そのなかの金銭も被告人が占有していると解すると、被告人がその金銭を抜き取った行為は、自己の占有する他人の物を横領する行為、しなわち委託物横領罪(刑法252条)またが業務上横領罪(刑法253条)が成立する。これに対して、被告人は集金袋の保管だけを委託されたのであって、そのなかの金銭については委託されておらず、金銭の占有はAにあると解するならば、金銭の抜き取り行為は、金銭に対するAの 占有を侵害しているので、窃盗罪(刑法235条)が成立する。

 かばん、ふくろなどに金銭やカード、写真などを入れ、それを保管するよう、人に委託することは珍しくない。その場合、かばん、ふくろが封緘されてあり、中身を取り出せないようにしている場合もあれば、かばんなどの口が開いたままであったり、閉まっていても、すぐに開けられるような場合もある。かばんが施錠されていれば、委託者は内容物について「占有」の意思を強調していると解することができる。かばんの保管を委託しても、内容物については占有の意思は継続しているということである。これに対して、施錠がされていなければ、その分だけ、占有の意思の継続は認められにくくなる。

 本件のような集金袋で、チャックされていなかったが、上蓋が占められ、止め金もされていた場合、内容物である金銭の占有は誰にあるのか。 

【裁判所の判断】
 被告人は、Aから施錠されていない集金かばんを預かったものであって、その在中物である現金に対して被告人の事実上の支配があっる程度及んでいたことは否定しえないとしても、被告人は、Aから右集金かばんを前記のように預か2百十数メートル離れた店に弁当を買いに行って帰るまでの約30分の間、同人が自由に出入りする場所で看視するとの趣旨で預かったものであり、また、右集金かばんは、施錠されていなかったとはいえ、上蓋の留め金はかけられていて、被告人がその在中物を取り出すことは許されていたものではないことにかんがみると、被告人が右現金に対して排他的な事実上の支配をしていたものとは到底認めることはできず、Aにおいてなお右現金につき実質的な事実上の支配を有していたものと認められる。したがって、被告人が右集金かばんから現金を抜き取りこれを持って同専売所から逃走した行為は、Aの右現金に対する占有を侵害しこれを窃取したというべきことは明らかであり、これを同旨の認定をした原判決には所論の事実の誤認はない。

【解説】
 金銭などが入ったかばんや封筒の保管を委託され、それが施錠や封緘(ふうかん)されている場合、かばん、封筒の占有は受託者にあることは明らかである。ただし、内容物の占有が誰にあるかは、必ずしも明らかではない。施錠・封緘された物それ自体の占有は受託者にあるが、内容物の占有は委託者にあるとするならば、その全体を領得する行為は委託物横領罪、内容物の領得は窃盗罪となり、全体を領得する行為の方が刑が軽くなり、不均衡な感は否めない。逆に、内容物も含めて、受託者が占有していると解すると、委託物横領罪が成立することになるが、受託者が「内容物には手を触れさせない」ために封緘しているにもかかわらず、内容物の占有が受託者に移転するという のは、やや奇異な感じがする。

 本件では、施錠されていなかったものの、上蓋がかけられ、止め金もされていた集金袋のなかの金銭の占有の帰属について、一定の判断を示したものである。占有帰属の判断基準としては、「施錠されていなかったとはいえ、上蓋の留め金はかけられていて、被告人がその在中物を取り出すことは許されて いたものではないこと」という事実が示されている。

窃盗か占有離脱物横領か(最決平成16・8・25刑集58巻6号515頁)

【事実の概要】
 被告人は、公園のベンチに座った際に、隣のベンチのAがポシェットを傍らに置いたまま、友人と話し込んでいるのを見かけ、置き忘れたら、持ち帰ろうと様子をうかがっていた。Aは置き忘れたまま、友人とその場を離れた。被告人は、Aがもう少し離れたら取ろうと注視し、Aが置き忘れに気づかないまま駅の方に行き、公園から27メートル離れた横断歩道橋まで行ったのを見て、ポシェットを取り上げ、それを持って公衆トイレに入り、なかから現金を抜き出した。

 Aは、歩道橋を渡り、ベンチから200メートル離れた駅の改札口まで2分ほどで到着し、そこでポシェットを置き忘れたことに気づき、ベンチまで戻ったが、ポシェットはなかった。友人がAの携帯電話に電話すると、トイレ内で電話が鳴った。被告人は、トイレから出てきたところをAに問い詰められ、通報により駆けつけた警察官に引き渡された。

 第1審、原審ともに、ポシェットに対するAの占有は持続していたとして、窃盗罪の成立を認めた。被告人が上告し、最高裁は上告を棄却し、職権で判断を示した。

【争点】
 財物の占有は、財物の事実上の支配と理解されている。この「事実上の支配」には、財物を手中に収めている場合だけでなく、その身辺に置いている場合も含まれる。例えば、施錠している(または、していない)自転車を自宅前の公道に駐輪している場合、その自転車の占有は持ち主にある。決して、「占有離脱物」などではない。

 しかし、持ち主がその財物から遠く犯れた場所に存在し、その時間が相当程度経過している場合には、事実上の支配状態は消滅し、占有が否定されることもある。その場所的・時間的な関係をどのように理解すべきか。

【裁判所の判断】
 被告人が本件ポシェットを領得したのは、被害者がこれを置き忘れてベンチから約27メートルしか離れていない場所まで歩いて行った時点であったことなど本件の事実関係の下では、その時点において、被害者が本件ポシェットのことを一時的に失念したまま現場から立ち去りつつあったことを考慮しても、被害者の本件ポシェットに対する占有はなお失われておらず、被告人の本件領得行為は窃盗にあたるというべきであるから、原判断は結論において妥当である。

【解説】
 窃盗罪の保護法益は、財物の占有である。それは、財物に対する事実上の支配である。持ち運びできる物もあれば、一定の場所に保管するなどする物もあり、財物に対する事実上の支配も、その財物の形状、大小、軽重によって、様々である。また、一定の場所に置いて、そこを離れた場合も、その距離と時間などによって、事実上の支配の有無の判断は変わってくる。

 本件では、被害者が公園のベンチに置き忘れたポシェッを被告人が領得した行為が窃盗罪にあたると判断されたが、ポシェットと被害者の間が27メートルほどしか離れていなかったこと、その間数分間しか経過していなかったこと、被害者はポシェットのことを一時的に失念していただけであることなど客観的状況と被害者の認識を踏まえて、被害者のポシェットに対する占有を肯定した。

死者の占有(最判昭和41・4・8刑集20巻4号207頁)

【事実の概要】
 被告人は、被害者の女性Aを姦淫した後、犯行が発覚するのを防ぐために、Aを殺害することを決意し、仰向けに倒れたAの頸部を両手で強く絞めて窒息死させ、その遺体を埋めて遺棄した。その際、被告人はAの腕から腕時計をもぎ取った。被告人は、強姦罪、殺人罪、死体遺棄罪、そして「窃盗罪」で起訴された。

 第1審は、起訴内容どおり被告人の罪責を認め、被告人を「死刑」に処した。これに対して被告人が控訴したが、原審はそれを棄却した。被告人は、Aの死体から腕時計をもぎ取った行為は、窃盗罪ではなく、占有離脱物横領罪にあたるとして上告した。

【争点】
 窃盗罪は、財物に対する占有を侵害する行為であり、その成立の前提には、財物が存在すること、そしてそれを人(自然人)が占有していることを要する。自然人とは、「生きている人」であることは言うまでもない。

 死者から、それが身に着けている財物を奪った場合、どのような犯罪が成立するか。死者は「生きている人」ではなく、その財物は「生きている人」によって占有されていないので、それを奪っても窃盗罪は成立しない。その財物は、被害者が生前占有していたものであり、被害者が死亡することによって、その占有から離脱したので、それを奪った場合に成立するのは、占有離脱物横領罪(刑法254条)が成立するだけである。従って、死者が財物を占有することはありえないので、死者から、それが身に着けている財物を奪った場合、成立するのは占有離脱物横領罪である。

 このように、死者は財物を占有しえない。しかし、殺害された直後に、被害者から財物を奪う場合には、「死者の占有」が肯定され、窃盗罪が成立ことが認められている。死者の生前の占有が、死後も一定のあいだ継続し、それが保護される場合がある。これが「死者の占有」である。

 では、どのような要件がそろっていれば、死者の生前の占有が、死後も一定のあいだ継続し、それが保護されるのか。

【裁判所の判断】
 被告人は、当初から財物を領得する意思を有してはいなかったが、野外において、人を殺害した後、領得の意思を生じ、右犯行直後、その現場において、被害者が身につけていた時計を奪取したのであって、このような場合には、被害者が生前有していた財物の所持(占有)はその死亡直後においてもなお継続して保護するのが法の目的にかなうというべきである。そうすると、被害者からそれを奪取した一連の被告人の行為は、これを全体的に考察して、他人の財物に対する所持を侵害したものというべきであるから、右奪取行為は、占有離脱物横領ではなく、窃盗罪を構成するものと解するのが相当である。

【解説】
 本件の事案に関して、最高裁は「死者の占有」の有無の判断基準を示した。

 被告人が、野外において人を殺害した後、新たに財物を領得する意思が生じ、殺害直後に、その現場において、被害者が身に着けていた財物を奪った場合、被害者の財物に対する生前の占有が、死後においても継続し、それを窃盗罪の保護法益である「財物の占有」として保護する必要性が認められる。

 従って、死者の占有については、殺害の直後という殺人と財物奪取の時間的接着性、殺害の現場という場所的接着性、被害者が身に着けていた財物という行為客体の特徴が、死者の占有の有無を判断する重要な基準となる。

 以上の要件を満たしている場合、殺人罪の後の財物奪取は窃盗罪にあたり、殺人罪と窃盗罪の併合罪になる(処断刑は、殺人罪の法定刑を加重した「死刑又は無期若しくは「30年以下」5年以上の懲役」になる)。

 かりに、行為者が、被害者を殺害する前に、すでに財物奪取の意思を持っていた場合、行為者は殺人という手段を用いて、財物を奪取しているので、それは強盗殺人罪(刑法240条)にあたり、法定刑は死刑または無期懲役である。最初から財物奪取の意思があった場合の方が刑が重くなる。

窃取の意義(最決平成21・6・29刑集63巻5号461頁)

【事実の概要】
 被告人XとYは、針金を使用してパチスロ遊技機からメダルを窃取する目的でパチスロ店に入った。Yは、パチスロ遊技機(1080番台)に所携の針金を差し込んで、遊技機を誤作動させるなどのゴト行為の方法によりメダルを取得した。
 他方、Xは、店の防犯カメラや店員による監視からYの行為を隠蔽する目的をもって、Yの付近のパチスロ遊技機(1078番台)で通常の遊技方法により遊戯し、メダルを取得した。
 Xは、自分が取得したメダルとYがゴト行為により取得したメダルを併せて換金し、Yと換金役の者とともに、換金された金銭を三等分する予定であった。
 Xらの犯行が発覚した時点において、Yが座っていた1080番台のドル箱には72枚のメダルが入っており、それらはYがゴト行為により取得したものであった。Xが座っていた1078番台のドル箱には414枚のメダルが入っていた。換金する際にそれらを併せたとき、Xが通常の遊技方法によって取得したメダルと、Yがゴト行為によって取得したメダルとが混在していた。

 原判決は、Yのドル箱の72枚のメダル、Xのドル箱の414枚のメダルの合計486枚のメダルの全部について窃盗罪の成立を認めた。Xは、確かに通常の遊技方法でパチスロ遊技機で遊技し、その方法によってメダルを取得したのであるが、その行為も本件XとYの行為の一部を構成していると評価でき、そのような方法によるメダルの取得を被害店舗が許容していないことは明らかであると述べて、メダル全部に対する窃盗罪の共同正犯の成立を認めた。

【争点】
 窃盗罪の実行行為は、他人の財物を窃取する行為である。それは、他人の意思に反して、その財物に対する占有を侵害して、その財物を自己または第三者の支配領域内に移転することである。従って、窃取は他人による財物の占有を侵害する行為である。

 パチスロ遊技は、店側と客側との間に遊技契約を交わすことで成り立っている。両者の間で一定のルールを遵守することを取り決め、客は店側に料金を支払う。店側は客に一定のサービスを提供する。店側がルールに違反した場合、客は料金の支払いを拒否または支払った料金の返還を求めることができ、客側がルールに違反した場合、店側はサービスの提供を拒否または提供したサービスの返還を求めることができる。

 例えば、客が禁止されている遊技方法によりメダルを取得した場合、店側はその返還を求める権利があり、客側はそれに応じる義務がある。それは両者の民事法上の関係であるが、それとは別に刑法上、客側に窃盗罪が成立する。それが現在の通説・判例の立場である。客が禁止されている遊技方法によってメダルを取得する行為は、店側の意思に反して、店によるメダルの占有を侵害して、自己の支配領域内に移転していると認定できるからである。

 それに対して、客が通常の遊技方法によりメダルを取得した場合、それは遊技契約どおりの方法で取得したのであるから、契約違反にあたらないことは明らかなうえ、店側の意思に反してメダルの占有を侵害したわけではないので、窃盗罪が成立することはありえない。

【裁判所の判断】
 以上の事実関係の下においては、Yがゴト行為により取得したメダルについては窃盗罪が成立し、Xもその共同正犯であったということはできるものの、Xが自ら取得したメダルについては、被害店舗が容認している通常の遊戯方法により取得したものであるから、窃盗罪が成立するとはいえない。そうすると、Xが通常の遊戯方法により取得したメダルとYがゴト行為により取得したメダルが混在した前記ドル箱内のメダル414枚全体について窃盗罪が成立するとした原判決は、窃盗罪における占有侵害に関する法令の解釈適用を誤り、ひいては事実を誤認したものであり、本件において窃盗罪が成立する範囲は、前記下皿内のメダル72枚のほか、前記ドル箱内のメダル414枚の一部にとどまるというべきである。

【解説】
 Xは、Yがゴト行為を行ってメダルを窃取するにあたり、それが店側に発見されないよう隠蔽した。そして、Yが窃取したメダルの一部を受け取り、自分のドル箱に入れた。それは、Yによる「メダルの占有移転」を容易にした「幇助」ではなく、メダルの占有をYから自己に移転した行為であり、「メダルの占有移転」の一部を構成している。それゆえ、XとYには窃盗罪の共同正犯が成立する。

 本件の事案で問題になっているのは、窃盗の被害物の範囲の特定である。Xのドル箱には414枚のメダルが入っていたが、それはXが通常の遊技方法で取得したメダルと、Yがゴト行為によって取得したメダルの一部であった(その内訳は不明)。原審は、Xは通常の遊技方法によりメダルを取得したとはいえ、それはYのゴト行為の一部を構成していると評価できるとして、そのメダルについても窃盗が成立すると判断したが、最高裁はXが自ら取得したメダルは通常の遊技方法によるものであるから、窃取したものとはいえないと判断した。Xは、Yのゴト行為を共同して実行し、メダルを取得したのであって、通常の遊技方法によるメダルの取得は店側の意思に反してメダルを取得したものではない。それゆえ、被害物の範囲は、Yのドル箱の72枚とXのドル箱の414枚の一部にとどまる。

毀棄目的と不法領得の意思(最二小決平成16・11・30刑集58巻8号1005頁)

【事実の概要】
 被告人は、支払督促制度を悪用して、叔父の財産を不正に差し押さえ、強制執行することなどにより金員を得ようと考えた。被告人は、叔父に対して6千万円を超える立替債権を有する旨の内容虚偽の支払督促を裁判所に申立てた。裁判所は、債務者とされた叔父あてに支払督促正本および仮執行宣言付支払督促正本を発送した。被告人の共犯者は、叔父を装って、それを郵便配達員から受け取り、それによって適式に配達された外形を整えた。そして、そのような支払督促正本が送られてきたことを叔父に知らせず、督促異議申立の機会を与えず、支払督促の効果を確定させた。
 被告人は、叔父を装って受け取った叔父宛ての支払督促正本を何らかの用途に利用するつもりはなく、速やかに廃棄するつもりであった。現に共犯者から当日中に受け取った支払督促正本を当日中に廃棄した。しかし、被告人は、郵便配達員を欺いて支払督促正本を交付させたとして、(財物)詐欺罪で起訴された。
 第1審は、詐欺罪の成立を認めた。詐欺罪も財産犯の一種である以上、不法領得の意思が要件として必要である。ある財物が存在しなくなれば、財物の占有者の利用が妨げられる。たとえ存在しても、財物の占有者の利用が妨げられれば、同じである。そうなることが特定の人の利益になるような場合、その特定の人がその財物を廃棄するつもりで騙取(へんしゅ=他人から騙し取ること)し、その財物を廃棄することは、その経済的な用法ないし本来的な用法に従って、これを利用し、もしくは処分する行為であると解され、また行為者には不法領得の意思(所有者を排除して、その財物の経済的用法に従って、それを利用・処分する意思)があるといえる。そのような理由から、第1審は詐欺罪の成立を認めた。
 被告人は、郵便配達員を欺いて支払督促製正本を騙取したのは、それを破棄する目的からであって、その経済的用法に基づいて利用・処分する目的はなかったとして、不法領得の意思はなかたっとして、控訴した。
 控訴審は、財物を最終的に破棄または隠匿する場合であっても、財物を騙し取ることが財物を経済的ないし本来的な用法に従って積極的に利用する目的に基づくものであることは十分にありうるとして、被告人の不法領得の意思を認め、控訴を棄却した。これに対して、弁護人が上告した。

【争点】
 窃盗は、財物に対する他人の占有を侵害して、それを自己または第三者の支配領域に移転する行為である。それを認識しながら行なった場合、窃盗罪の故意が認められる。ただし、窃盗罪の主観的要件としては、さらに「不法領得の意思」が必要であると解されている(判例・通説)。それは詐欺罪の場合にも妥当する。
 詐欺罪は、財物を占有する他人を欺いて(虚偽の事実を真実であると誤信させて)、その財物を交付させる(差し出させる)行為である。詐欺罪の主観的要件としては、行為者にその認識だけでなく、その財物を不法に領得する意思(不法領得の意思)がなければならない。
 「不法領得の意思」とは、権利者を排除して(権利者排除意思)、財物の経済的または本来的用法に従って、利用または処分する意思(経済的・本来的利用・処分意思)である。従って、破棄したり、隠匿する目的で財物を窃取・騙取しても、窃盗罪・詐欺罪にはあたらない。本件では、被告人らは、郵便配達員を欺いて、叔父宛ての郵便物を交付させ、それを受け取ったが、その際に「不法領得の意思」がなければ、詐欺罪の主観的要件を満たすことはできない。破棄する目的に基づいて、郵便物を受け取り、それを破棄した場合には、詐欺罪(刑法246①)ではなく、器物損壊罪の(刑法261)成立が認められる。隠匿する目的で受け取り、それを隠匿した場合、信書隠匿罪(刑法263)が成立する。
 ただし、破棄・隠匿目的による場合でも、「不法領得の意思」が認められることがある。

【裁判所の判断】
 被告人は、前記のとおり、郵便配達員から正規の受送達者を装って債務者あての支払督促正本等を受領することにより、送達が適式にされたものとして支払督促の効力を生じさせ、債務者から督促異議申立の機会を奪ったまま支払督促の効力を確定させて、債務名義を取得して債務者の財産を差し押さえようとしたものであって、受領した支払督促正本等はそのまま廃棄する意図であった。このように郵便配達員を欺いて交付を受けた支払督促正本等について、廃棄するだけで外に何らからの用途に利用、処分する意思がなかった場合(財物詐欺の成否が問題になる場合)には、支払督促正本等に対する不法領得の意思を認めることはできないというべきであり、このことは、郵便配達員からの受領行為を財産的利得を得るための手段の一つとして行ったときであっても(利益詐欺罪の成否が問題になる場合であっても)異ならないと解するのが相当である。そうすると、被告人に不法領得の意思が認められるとして詐欺罪の成立を認めた原判決は、法令の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。
 しかしながら、本件事実中、有印私文書偽造、同行使罪の成立は認められる外、第1審判決の認定判示しらその余の各犯行の罪質、動機、態様、結果及びその量刑などに照らすと、本件においては、上記法令の解釈適用の誤りを理由として原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。

【解説】
 本件において、最高裁は、第1審・原審の判決を是認・維持しながらも、詐欺罪における「不法領得の意思」の理解については、第1審・原審の判断よりも狭く捉え、詐欺罪の成立を否定した。最高さがそのような判断ができたのは、本件では私文書偽造罪(刑法159)など他の犯罪が成立しているからである。被告人に債権がないにもかかわらず、それがあるかのようにするために、債券・債務の関係に関する私文書を偽造し、またこれを行使している以上、それに重ねて詐欺罪の成立を認める必要はないと判断されたからである。最高裁は、詐欺罪以外の私文書偽造罪などの「各犯行の罪質、動機、態様、結果及びその量刑などに照らすと、本件においては、上記法令の解釈の誤りを理由として原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない」と判断したのは、被告人が支払督促正本を郵便配達員からだまし取った行為は、その犯罪全体において重要な位置を占めているとはいえないからであると思われる。

自動車の一時使用と不法領得の意思(最決昭和55・10・30刑集34巻5号357頁)

【事実の概要】
 被告人は、某日の午前0時ころ、A駐車場に駐車してあったB所有の普通乗用車を午前5時30分ころまでに元の場所に戻すつもりで、無断で乗りまわしていたところを、午前4字10分ころ、無免許運転により警察官に逮捕された。

【争点】
 窃盗罪は、他人が占有する財物を、その意思に反して、占有を侵害して、自己または第三者の支配領域に移転する行為である。主観的要件としては、その認識に併せて、不法領得の意思が必要である。

 不法領得の意思とは、権利者を排除して、財物の経済的または本来的な用法に従って、利用または処分する意思である。不法領得の意思は、「権利者排除意思」と「経済的利用意思」の二つから成り立っている。

 判例番号31では、廃棄目的に基づいて財物を自己の支配領域に移転し、その後実際にも廃棄した事案であり、不法領得の意思があったとはいえないとして否定された。それは、「経済的利用意思」が認められなかったことが理由であった。その事案では、おそらく「権利者排除意思」は認められたものと思われる。

 では、「権利者排除意思」とはどのように理解すべきか。権利者を排除するというのは、財物を自己の物にするために、権利者を「完全に排除する」という意味なのか、それとも一定の期間利用するために、権利者を「一時的に遠ざける」といった場合も含まれるのか。

 持ち主が不在であり、急いでいたので、雨がさや自転車などを一時的に借りて、使い終わってから、元の場所に戻すようなことがある。かさ、自転車の経済的・本来的な用法に従って利用する意思に基づいて、自己の支配領域に移転させているので、「経済的利用意思」があったのは明らかである。では、「権利者排除意思」はあったかというと、元の場所に戻すつもりで、自己の支配領域に移転させているので、「権利者排除意思」があったと言い切れない。しかし、「使い終わってから、元の場所に戻すつもり」であったといっても、数分後であれば、権利者が排除されたと言う必要はないが、数時間後、2、3日後、となると、話は別であり、その間に権利者が利用しようと思っても、利用できない状況が発生していれば、権利者は排除されたと受け止めるであろう。

 本件の事案では、被告人は他人の自動車を元の場所に戻すつもりで、5時間30分ほど自動車を利用する意思で、自動車を利用したところ、4時間ほどして無免許運転で逮捕された。道交法の無免許ないし免許不携帯の罪だけでなく、さらに窃盗罪が成立するか。窃盗罪の成立には、不法領得の意思が必要であるが、被告人にそれがあったか。経済的利用意思が認められることに問題はないが、権利者排除意思があったといえるか。この問題が争点となった。

【裁判所の判断】
 被告人は、深夜、広島市内の給油所の駐車場から、他人所有の普通乗用車(時価約250万円)を、数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図のもとに、所有者に無断で乗り出し、その後4時間余りの間、同市内を乗り回していたというのであるから、たとえ、使用後に、これを元の場所に戻しておくつもりであったとしても、被告人には右自動車に対する不法領得の意思があったというべきである。

【解説】
 他人の財物を一時的な利用し、元に戻すつもりで、財物を自己の支配下に置く行為が窃盗罪にあたるか。このような問題は、一般に「使用窃盗」と呼ばれる。不法領得の意思の有無、とくに「権利者排除意思」の有無が問題になる。

 被告人は、①他人の自動車を元の場所にもどすつもりで、(遅くとも5時30分ころまで)数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図のもとに、②所有者に無断で乗り出し、③その後4時間余りの間、同市内を乗り回していた。

 「元の場所に戻すつもり」であったことは、権利者を「排除」する意思を否定する根拠になるが、「数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図」があったことは、権利者を「排除」する意思を肯定する根拠になる。また、「所有者に無断で乗り出した」ことも、権利者を「排除」する意思を肯定する根拠になる。さらに、「4時間余り乗っていた」ことも、権利者を「排除」する意思を肯定する根拠になる。最高裁は、このような点に着目して、権利者排除意思のあったことを認定した。

 かりに、数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図で、所有者に無断で乗り出しても、乗り出した直後に(雨が降ってきたなどの事情によって)元の場所に戻したという場合には、権利者排除意思は認められないであろう(たとえ認められても、権利者を排除した事実=他人の財物を自己の支配領域に置いた事実は認められないであろう)。

情報の不正入手と窃盗罪(東京地判昭和59・6・28刑月16巻5=6号476頁)

【事実の概要】
 A製薬の代表取締役社長の被告人Xと顧問であった被告人Yは、国立予防衛生研究所抗生物質製剤室に勤務する厚生技官Zと共謀して、同室長Cが保管する、B製菓のホスホマイシン(注射剤などを製造するための抗生物質の一つ)に関する資料を入手することを企てた。
 Zは、午前9時頃出勤して、出勤前のC室長の戸棚のなかからB製菓のホスホマイシンに関する資料が入っているファイル1冊をひそかに取り出して自己の机の上に置き、9時半頃、受け取りに来たYに手渡した。
 YはこれをA制約本社に持ち帰ってコピーを作成し、その日の午後4時前後に予防衛生研究所に赴いて、Zにそのファイルを返還した。
 XとYは、窃盗罪で起訴された。弁護人は、①被告人らが窃取しようとしたのは、ファイルに記載されている思想内容そのものであり、それは窃盗罪の客体である財物ではない、②かりにファイルが財物にあたるとしても、その持ち出しは期間が限定された短い時間であって、権利者を排除したとはいえない。かりに権利者を排除したとしても、被告人らには権利者を排除する意思はなかったと主張して、窃盗罪は成立しないと主張した。

【争点】
 一般に企業秘密や機密情報は、文書ファイルとしてまとめられ保管されたり、また機密がデータとしてまとめられている場合はUSBメモリなどに保存されている。

 その機密情報を入手するためには、文書ファイルを持ち出してコピーをとったり、USBメモリなどを持ち出して複製する以外にない。コピーや複写したことが発覚しないようにするために、文書ファイルやUSBメモリは、元の保管場所に戻される。

 弁護人が主張するように、文書の複写、データの複製のために、文書ファイルやUSBメモリを持ち出す行為には、権利者排除意思が認められないとすると、このような情報の不正入手は窃盗罪で処罰されず、別の法律によって対処されることになる。これに対して、短時間であっても権利者を排除している以上、権利者排除意思が認められるならば、窃盗罪で処罰することができる。

 本件のような情報の不正入手のためのファイルの持ち出しをどのように考えるべきか。

【裁判所の判断】
 情報の化体された媒体の財物性は、情報の切り離された媒体の素材だけについてではなく、情報と媒体が合体したものの全体について判断すべきであり、ただその財物としての価値は、主として媒体に化体された情報の価値に負うものということができる。そして、この価値は情報が権利者(正当に管理・利用できる者を含む。以下同様)において独占的・排他的に利用されることによって維持されることが多い。また、権利者において複製を許諾することにより、一層の価値を生みだすことも可能である。情報の化体された媒体は、こうした価値も内蔵しているものといえる。……本件ファイルは、判示医薬品に関する情報が媒体に化体され、これが編綴(へんてつ)されたものとして、財物としての評価を受けるものといわなければならない。

【解説】
 文書ファイルは、文字が書かれた紙の束であり、そのような「素材」の財物が、製剤室から持ち出され、数時間後に元の場所に置かれただけであれば、その文書ファイルは価格にして数従円程度でしかなく、大した被害は発生していないので、それを持ち出した行為を刑罰で対処する必要はないように思われる。

 しかし、持ち出されたモノの「素材」は紙の束でしかないが、その財物性は、素材と企業秘密や秘匿情報が合体した全体について判断される。

 従って、文書ファイルを紙の束だと言って、古新聞や雑誌の束と同じように扱って、そのようなモノを元に戻す意思のもとに持ち出しても、重大な被害は発生していないと、軽く扱うことはできない。

034窃盗罪の既遂時期(東京高判平成4・10・28判タ823号252頁①事件)

【事実の概要】
 被告人は、スーパーマーケット店内において、買物かごに商品35点を入れ、店員の監視の隙を見て、レジ脇から買物かごをレジの外に持ち出し、カウンター(サッカー台)の上に置いて、同店備付けのビニール袋に商品を移そうとしたところを店員に取り押さえられた。

 第1審は、被告人に窃盗既遂罪の成立を認めた。弁護人が控訴し、商品の占有はいまだ店側にあったので、窃盗は未遂にとどまるとして、窃盗既遂罪が成立するためには、被告人が買物かご内の商品を別の袋(同店備付けのビニール袋やマイバッグなど)に移転することを要すると主張した。

【争点】
 窃盗罪は、他人が占有する財物に対して外部から働きかけ、それの自己または第三者の支配領域内に移転した場合に成立する(窃盗既遂)。財物に対する外部からの働きかけが開始されることで、窃盗の実行の着手が認められ、その財物が自己などの支配領域内に移転することによって、窃取したことになり、窃盗既遂に達する。

 窃盗の実行の着手や既遂時期は、財物の形状、大小、軽重によって個別的に判断される。本件の事案は、スーパーマーケットにおける万引きの事案であり、店内の商品(財物)の占有の移転の時期について争われた。

 スーパーマーケットの店内は、客が店内の商品を店専用の買物かごに入れ買物する場所、客が購入金額を支うレジ、客が購入済みの商品を店提供のビニール袋やマイバッグに移し替えるカウンター(サッカー台)、そして出入口から成っている。このような構造のスーパーマーケットにおいて窃盗が行われる場合、その既遂は、いつ、どの場所であるか。

 弁護人は、商品の入った店専用の買物かごがカウンター(サッカー台)に置かれ、まだ商品がビニール袋に移し替えられていない時点では、商品の占有は店側にあると主張し、客が商品をビニール袋やマイバッグに移し替えた時点において、商品を自己の支配領域に移転したと判断すべきであると主張した。買物かごをカウンターに置いた時点では、代金未払いの商品はまだ被告人の袋やカバンには入っておらず、それがsどれであるのかは明らかなので、窃盗が既遂に達したと判断することはできないと解することもできる。

 しかし、カウンターは一般にレジで代金を支払った客が購入済みの商品を自分の袋やカバンに移し替えるための場所であって、同一の店舗内にあっても、機能的に区別されていると解することもできる。

【裁判所の判断】
 事実関係の下においては、被告人がレジで代金を支払わずに、その外側に商品を持ち出した時点で、商品の占有は被告人に帰属し、窃盗は既遂に達すると解すべきである。なぜなら、右のように、買い物かごに商品を入れた犯人がレジを通過することなく外側に出たときは、代金を支払ってレジの外側へ出た一般の買い物客と外観上区別がつかなくなり、犯人が最終的に商品を取得する蓋然性が飛躍的に増大すると考えられるからである。

【解説】
 本件では、窃盗の既遂・未遂の判断時期としては、被告人がレジの外にでた時点であると示されている。その理由としては、その時点において代金を支払った一般の客と未払いの被告人とが外観上区別がつかなくなるという点が強調されている。

 買物かごを持ってレジの外側に出て、カウンター付近にいる客は、基本的に代金を支払い終わったという外観を呈している。そのなかに被告人が紛れ込んでいる場合、その被告人もまた代金を支払ったものとみなされる。つまり、被告人が持っている買物かごの中の商品は、被告人が代金を支払って購入した商品であるとみなされる。もはや店側は、それを返還を求めることができなくなる。このように理解すると、裁判所の判断は説得力がある。

 ただし、このような判断は、本件の店舗のような構造の場合に妥当するだけで、コンビニなどでの窃盗にも当てはまるかどうかは別の問題である。そのような店舗の場合には、既遂の判断時期が変わる可能性がある。ただし、その判断方法としては、代金を支払った一般の客と未払いの被告人とが外観上区別がつかなくなるという点が重視されると思われる。

親族相盗(最決平成20・2・18刑集62巻2号37頁)

【事実の概要】
 被告人は、娘の死後、家庭裁判所による娘の子Xの未成年後見人に選任され、Xの預貯金の出納、保管等の業務に従事していたが、Xの伯父夫婦と共謀して、1500万円を超える金員を消費するために、これらの預貯金口座から引き出した。被告人は、業務上横領罪で起訴された。

 被告人ら3人は、被害者Xとの間に親族関係がることを主張して、親族相盗例が準用されるべきであると主張した(刑法255条、244条)。Xと直系血族の者やその他の親族の場合、「法は家庭に入らず」という考えが妥当し、刑の免除または親告罪として扱われる。被告人はXの祖父にあたり、直系血族にあたるので、業務上横領罪の刑は免除されるべきであり、伯父夫婦はその他の親族にあたるので、Xの告訴がないかぎり裁判にかけられないはずであると主張した。

 これに対して第1審では、被告人らはXの財産を管理する後見人であるが、それはXとの信任関係に基づくといいうよりは、家庭裁判所との信任関係に基づくものであるから、家庭裁判所という親族ではない第三者を巻き込んで本件の事案は、「法は家庭に入らず」という親族相盗例準用する余地はないと判断し、業務上横領罪の成立を認めた。

 これに対して被告人らが控訴したが、控訴審では、被告人はXの財産を管理しているのは、未成年者の保護の一環として、法により未成年後見人として管理する権限を付与されているのであって、親族関係に元ぢて管理を委託されているのではないと判断し、控訴を棄却した。

 さらに被告人らが上告した。

【争点】
 他人の財物を窃取すると窃盗罪が成立する。自己が管理する他人の物を横領すると横領罪が成立する。ただし、被告人と被害者との間に親族関係がある場合、その直系血族や配偶者については、その刑が免除され、その他の親族については、被害者の告訴がなければ、公訴の提起ができない。

 このように財産犯が成立しながら、刑が免除されたり、親告罪扱いされるのは、「法は家庭に入らず」という考えに基づいているからである。財産犯が行われたとして刑法が介入するのは、非常に重大な財産侵害が発生した場合である。それが家庭内に起こった場合、家庭の問題は家庭で解決するのが相応しく、法律沙汰にするまでもない。このような考えがある。これは、財産犯が成立するが、政策的に刑罰を控えるという考えがあるからである(一身的刑罰阻却事由説:判例)。これに対して学説では、刑罰が阻却されるのは、犯罪の成立要件(違法性や責任)が欠けるからであるとの立場もある。家族の財産は家族で共同して形成された共有財産であり、それを盗っても、重大な違法性がないからであるとか(違法性減少説)、たとえ共有財産と言えなくても、それを盗ったことを厳しく叱責する必要はないと考えられるからである(責任減少説)。

 本件のように、被告人らと被害者Xとは親族の関係にあるが、被告人らがXの財産を管理しているのは、親族関係があるからではなく、家庭裁判所によって未成年後見人に選任されたからである。このような場合においても、被害者との間に親族関係があったことを理由にして、親族相盗例の適用が認められるのか。

【裁判所の判断】
刑法255条が準用する同法244条1項は、親族間の一定の財産犯罪については、国家が刑罰権の行使を差し控え、親族間の自律にゆだねるのが望ましいという政策的な考慮に基づき、その犯人の処罰につき特例を設けたすぎず、その犯罪の成立を否定したものではない。
 未成年後見人の選任は、義務等に関する民法の規定を見ると、「未成年後見人は、未成年被後見人と親族関係にあるか否かの区別なく、等しく未成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っていることは明らかである。
 そうすると、未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、家庭裁判所から専任された未成年後見人が、業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に、上記のような趣旨で定められた刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。したがって、本件に同条項の準用はなく、被告人の刑は免除されないとした原判決の決rんは、正当として是認することができる。

【解説】
 被告人らとXとの間には親族関係がある。しかし、被告人らがXの財産を親族関係を理由に管理していたかというと、そうではない。被告人らは家庭裁判所によって未成年後見人として選任されたことを理由にXの財産を管理する立場にあったのである。そうすると、Xの預貯金を引き出した行為は、業務上横領罪にあたるといえる。

 「法は家庭に入らず」という思想は、自然的な血縁関係に基づいて成立している親子関係、そのなかで形成された財産関係に対して適用されるだけで、国家的・法的な委任関係に基づいて成立している財産の管理監督関係に対しては適用されない。その管理監督を親族が行っている場合でも適用されないと解すべきである。

不動産侵奪罪における「占有」の意義

【事実の概要】
 A工務店は、債権者の1人であるBの要求により、所有する「土地の管理」をBに委ねた。その土地にはA所有の作業所兼倉庫5棟が建てられてあった。Bが取得した権利は、「地上建物の賃借権およびこれに付随する本件土地の利用権」であり、それを超えるものではなかった。

 Bはその権利をCに譲り渡した。そのころ、Aは夜逃げして行方をくらまし、事実上廃業状態になっていた。

 XはCから権利を買い受け、本件の土地の引き渡しを受けた後、土地の上に建築廃材や廃プラスチックなどの混合物からなる廃棄物を堆積させ、容易に現状回復できないようにした。

 B・Cは不動産侵奪罪のかどで起訴された。

 第1審は、不動産侵奪罪の成立を認めた。第2審もその判断を維持した。Bがその土地の利用権を取得したのは一時的なものであり、Bからそれを譲り受けたCも、同じ利用権に基づいて土地を占有していたのであって、その時点においてもの土地に対する間接占有者として土地に対する占有を保持していたと考えるべき状況にあった。従って、Cが土地に廃棄物を堆積させ、容易に原状回復できなくした行為は、所有者であり間接占有者のAの土地に対する占有を排除し、これを自己の占有に取り込んだものと言わざるを得ないと判断した。

【争点】
 不動産侵奪罪は、不法領得の意思に基づいて、不動産に対する他人の占有を排除し、それに自己の占有、すなわち事実上の支配を設定する行為をいう。この事実上の支配の設定とは、どのような意味か。

 第1に、前提条件として、他人が不動産を占有していることが必要である。それは、他人が単独で不動産を直接占有している場合だけでなく、他者と共同で占有している場合、さらには占有者が間接的に占有している場合も含まれる。

 第2に、他人が占有する不動産を自己が占有すること、事実上の支配を設定することが必要である。

 他人の土地に入って、そこに自分の名前の書かれた旗を立てた行為は、不動産の「侵奪」といえるか。土地に対する事実上の支配を設定したといえるか。旗を立てる程度であれば、それを引き抜くことは容易にできる、土地に対する事実上の支配の設定とは、容易に原状回復することができない工作物を土地に建てるなどして、土地の占有者により利用が困難になっていることを要する。

【裁判所の判断】
 本件土地の所有者であるA工務店は、代表者が行方をくらまして事実上廃業状態となり、本件土地が現実に支配管理することが困難な状態になったけれごも、本件土地に対する占有を喪失していたとはいえず、また、被告人らは、本件土地についての一定の利用券を有するとはいえ、その利用権限を超えて土地に大量の廃棄物を堆積さえ、容易に現状回復をすることができないようにして本件土地の利用価値を喪失させたというべきである。そうすると、被告人らは、A工務店の占有を排除して自己の支配下に移したものということができるから、被告人両名につき不動産侵奪罪の成立を認めた原判決の判断は、相当である。

【解説】
 本件は、不動産に対するAの占有の有無、B・Cによる侵奪の有無を判断するための基準を示した。

 本件土地の所有者は、A工務店である。しかし、A工務店の代表者は行方をくらまして、どこにいるか分からない状態であった。しかも、A工務店が事実上廃業状態となり、本件土地を現実に支配管理することが困難な状態にあった。しかし、本件土地に対する占有を喪失していたとはいえないと認定された。それは、AがBに「土地の管理」を委ねただけで、「地上の建物の賃借権およびそれに付随する土地の利用権」を与えただけであり、その土地に新たな建物を建てるとか、産業廃棄物の集積場にするなどの権利まで与えたわけではなかった。従って、「土地の管理」および「地上の建物の賃借権およびそれに付随する土地の利用権」を超える権利は、A工務店にあるので、その限りでA工務店は土地を間接的に占有していたといえる。

 BはCに利用権を譲り渡したが、その権利は、AがBに認めた権利(「土地の管理」および「地上の建物の賃借権およびそれに付随する土地の利用権」)を超えるものではなかった。それにもかかわらず、Cは権限を超えて土地に大量の廃棄物を堆積さえ、容易に現状回復をすることができないようにした。それは、本件土地の利用価値を喪失させるものである。そうすると、A工務店の占有を排除して自己の支配下に移したものということができる。

不動産侵奪罪における「奪取」の意義(最決平成12・12・15刑集54巻9号1049頁)

【事実の概要】
 A不動産は、その所有する土地を、売却先が見つかるまでの一時的な貸与として、Bに無償で貸し与えた。ただし、転貸を禁止し、すぐに撤去できる屋台営業だけを認める約定で、その期間を定めたうえで貸し与えた。

 Bは、その土地に、鉄パイプでつないだ骨組みを作り、その周囲にビニールシートを張り巡らし、トタン板を屋根として取り付けた仮設の店舗(本件施設)を構築して、飲食業を営んだ。

 土地の貸与期間が終了したので、Aから土地の返還要求を受けたが、Bは土地の使用を継続し、Cに上記約定を伝えて、土地を賃貸し、本件施設とともに引き渡した。Cもまた、本件施設で飲食業を暇んでいたが、その後、被告人に上記約定を伝えて、本件土地を賃貸し、本件施設とともに引き渡した。

 被告人は、本件施設の側面の鉄パイプにたる木を縦に括り付けるなどしたうえ、これに化粧ベニヤを貼り付けて内壁を作り、本件土地にブロックを置き、その上に角材を約1メートル間隔で敷き、これにたる木を約45センチメートル間隔で打ち付け、その上にコンクリートパネルを貼って床面を作り、上部の鉄パイプにたる気をくくりつけるなどしたうえ、天井ボードを張り付けて天井を作り、たる木に化粧ベニヤを両面から張りつけて作った壁面で内部を区切って8個の個室を作り、各室にシャワー等を設置する方法により、風俗営業のための店舗(本件建物)を作った。

 第1審は、被告人はA不動産の意向に反してでも、本件土地の使用を続けることなどを目的として、速やかな撤去が困難な本件建物を構築したことによって、「A不動産の本件土地に対する支配を新たに排除した」として、不動産侵奪罪の成立を認めた。控訴審もこの判断を是認した。これに対して被告人が上告した。

【争点】
 不動産侵奪罪は、不法領得の意思に基づいて、不動産に対する他人の占有を排除し、それに自己の占有、すなわち事実上の支配を設定する行為をいう。この事実上の支配の設定とは、どのような意味か。

 「36」の事案でも明らかになったように、不動産の侵奪は、不動産に対する事実上の支配を設定する行為であり、それは容易に原状回復することができない工作物を土地に建てるなどして、土地の占有者により利用が困難になっていることを要する。

 A不動産から土地を借りたBは、本件施設を作り、それをCに引き渡した。これによって、Aの土地に容易に現状回復することができない工作物を立てているといえる。そうすると、B・Cに不動産侵奪罪が成立する。

 被告人は、Cからこの土地を借り、そして本件施設を引き受けて、さらに本件建物を建てた。すでに、不動産が侵奪されている土地に対して、被告人があたらに本件建物を建てる行為は、不動産の侵奪にあたるのか。本件建物は、Bが作った本件施設よりも、容易に現状回復することができない工作物といえるが、このような建物を建てることによって、「A不動産の本件土地に対する支配を新たに排除した」といえるか。

【裁判所の判断】
 被告人が構築した本件建物は、本件施設の骨組みを利用したものではあるが、内壁、床面、天井を有し、シャワーや便器を設置した8個の個室からなる本格的店舗であり、本件施設とは大いに構造が異なる上、同施設に被くべて解体・撤去の困難さも格段に増加していたというのであるから、被告人は、本件建物の構築により、所有者であるA不動産の本件土地に対する占有を新たに排除したというべきである。したがって、被告人の行為について不動産侵奪罪が成立する。

【解説】
 本件では、被告人が構築した「本件建物」は、Bが作った「本件施設」の骨組みを利用したものではあるが、内壁、床面、天井を有し、シャワーや便器を設置した8個の個室からなる本格的な店舗であり、「」本件施設」とは大いに構造が異なる上、同施設に被くべて解体・撤去の困難さも格段に増加していたというのであるから、本件建物の構築により、所有者であるA不動産の本件土地に対する占有が新たに排されたと認定された。

 Bが作った本件施設によって、A工務店の土地に対する占有が排除されたことについては明らかではないが、「新たに」という表現によって、すでにA工務店の占有が排除されたが、その上に被告人によって「新たに」排除されたと認定されているように思われる。

 不動産侵奪罪は、同一の不動産に対して、重ねて行われることが肯定されている。

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