刑事判例を法学部生にもわかりやすく解説「監禁,脅迫,強制わいせつ,住居侵入,etc.」

監禁罪の保護法益(京都地判昭和45・10・12刑月2巻10号1104頁)

【事実の概要】
 被告人は、某日の午後6時過ぎ、Aの住居に侵入し、Aに包丁を突き付けるなどして脅迫し、金員を強取しようとしたが、Aが1才7ヵ月の息子Bを残して、隙を見て屋外に逃げ出した(住居侵入・強盗未遂)。
 被告人は、Aの被害届を受けた警察がA宅を包囲したことを知ると、Bを人質にして2階奥の6畳間に連れて行き、警察官らに対して「近づくと子どもを殺すぞ」と言い、歩き回るBの手足を押さえ、同部屋の片隅にとどめておくようにするなどして、午後11時頃までBを同部屋から脱出不可能にした。

【争点】
 刑法は各種の犯罪を定めている。それは、法益の内容に応じて、個人法益に対する罪、社会法益に対する罪、国家法益に対する罪の3種に分類される。個人法益としては、生命、身体、自由、名誉、財産がある。
 生命を侵害する犯罪として殺人罪、身体を侵害する犯罪として傷害罪、暴行罪、(業務・重)過失致死傷罪、遺棄罪、堕胎罪がある。
 自由に対する罪としては、移動の自由・行動の自由を制約する犯罪として、逮捕罪・監禁罪、略取罪・誘拐罪などがある。
 逮捕罪は、他人の身体をロープで縛るなどして、「直接拘束」して、行動の自由を制限することである。
 監禁罪は、他人の身体を一定の場所に置き、そこから出れなくして、「間接的」に移動の自由を制限することである。
 略取・誘拐罪は、現在いる生活圏から離脱させ、行為者の生活圏へと移転させ、それを支配して、移動の自由・行動の自由を制約することである。
 いずれの行為も、被害者が行動や移動の自由への制約を受けていると実感することが多いが、その認識がないない場合もある。そのような場合でも、この種の犯罪は成立するのか。つまり、被害者が実際に移動・行動の自由を侵害されていることの認識が必要なのか(現実的自由説)、それともその認識は不要なのか(可能的自由説)。
 精神障害者、幼児、睡眠中の者の場合、一定の場所に監禁されても、移動の自由が制限されていることを自覚・認識していないことがあるが、このような場合に監禁罪の成立が否定されるのか、それとも肯定されるのかという問題として考えることもできる。本件では、1才7ヵ月の幼児を部屋から出れなくしたことが、監禁罪(移動の自由への制限)にあたるかが問題になった。

【裁判所の判断】
 監禁罪がその保護法益とされている行動の自由は、自然人における任意に行動しうる者のみについて存在するものと解すべきであるから、全然任意的な行動をなしえない者、例えば、生後間もない嬰児の如きは監禁罪の客体となりえないことは多く異論のないところであろう。しかしながら、それが自然的、事実的意味において任意に行動しうる者である以上、その者が、たとえ法的に責任能力や行動能力はもちろん、幼児のような意思能力を欠如しているものである場合も、なお、監禁罪の保護に値すべき客体となりうるものと解することが、立法の趣旨に適し合理的というべきである。

【解説】
 個人的法益に対する罪のなかでも、自由に対する罪は、その担い手である個人の「自由」が侵害の対象となるため、その成立には、被害者である個人が「自由」が侵害されていることの自覚と意味を理解していることが必要なように思われる。逆に言えば、被害者がその自由侵害を受け入れている場合、つまりその自由を処分・放棄している場合には、自由侵害はなく、罪は成立しなくなる(超法規的違法性阻却事由としての被害者の同意)。
 しかし、そのように解すると、自由やその侵害の意味を理解できない者については、最初から法益の担い手ではないことになりかねない。そのような者は自由の担い手にはなりえないのだろうか。そうであるとすると、一般の人に比べると法による保護が受けられなくなる。

 本件の事案に関して、裁判所は、監禁罪の保護法益を「行動の自由」として捉え、それは「自然人における任意に行動しうる者について存在する」として、「生後間もない嬰児」は監禁罪の対象にはなりえないが(未成年者略取罪・誘拐罪の行為客体にはなりうる)、「自然的・事実的意味において任意に行動しうる者」であるならば、「法的に責任能力や行動能力」、「幼児のような意思能力」を欠いていても、監禁罪の行為客体になりうると解している。これは、監禁罪の保護法益である「行動の自由」を「現実的自由」ではなく、「可能的自由」と理解する立場からの主張である。
 従って、1才7ヵ月の幼児であっても、自然的・事実的意味において任意に行動する以上(ママのところにハイハイするとか、アンパンマンが始まるとテレビの前に行こうとする)、その自由が法によって保護されていることを知らなくても、行動の自由の担い手、監禁罪の客体になりうる。

 このような理解に立てば、睡眠中の者にも、だまして自動車の助手席、バイクの後部座席に座らせた者にも、移動の自由が侵害されている以上、監禁罪が成立する。だまされたことに気づいた時点からだけでなく、、だまされて乗った時点から、すでに移動の自由は侵害されているので、監禁罪は成立することになる。

脅迫罪の罪質(最判昭和35・3・18刑集14巻4号416頁)

【事実の概要】
 奈良県の大和高田市は、根成柿と箸喰地区と合併したところ、根成柿はこれを機に高田派と橿原派に分裂し、根成柿の合併をめぐって住民投票が実施されることになった。そして根成柿では、橿原市への合併を推進する派(橿原派)と大和高田市への合併を推進する派(高田派・中心はT・Y)が激しく対立した。その最中に、橿原派の被告人3名が、Y名義で高田派のTに対して、「出火御見舞申し上げます火の元に御用心」と書いた葉書を送付し、T名義でYに対して「出火御見舞申上マス火の用心に御注意」と書いた葉書を送付した。
 第1審、控訴審ともに、橿原派の被告人3人に脅迫罪が成立すると判断した。これに対して、弁護人は、本件2通のはがきの文面は、「出火見舞い」にすぎず、「火を放って名宛人Tの財産に害を加える趣旨」とは受け取れないので、従って一般人がこの葉書を受け取っても、稚拙な悪戯に類するものとして一笑に付すか、さもなくば意味不明のものとして没却してしまうのが常識であって、「放火の危険」があると感ずる者はいないであろうと主張した。

【争点】
 刑法222条は、生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫する行為であり(1項)、親族の生命などに害を加える旨を告知して人を脅迫した場合にも成立する(2項)と規定している。つまり、生命・身体への加害の旨告知して、脅迫することである。脅迫とは、畏怖すること、恐怖心を抱くことを意味する。刑法222条所定の権利・法益などの侵害が告知され、それを聞いた者が恐怖心を抱けば、迫が成立する。それを聞いても、誰も何も感じず、一笑に付す場合には脅迫罪は成立しない。
 被害者が畏怖したかどうかによって、脅迫の成否が決まるとすれば(被害者基準)、告知の内容いかんにかかわらず、被害者が畏怖した以上、脅迫罪が成立することになる。しかし、人によっては、ささいなことにも恐怖心を抱く者もいれば、恐ろしいことを告知しても、まったく動じない者もいる。脅迫罪の成否が被害者基準で左右するというのも妥当ではない。従って、一定の客観的基準が必要になる。通説・判例では、一般人を基準にして、恐怖心を抱きうるような害悪の告知が行われていれば、被害者が恐怖審をいだいていなくても、脅迫が成立すると解されている(一般人基準)。
 かりに被害者を基準にした場合、権利や法益の害悪の告知の内容がたとえ些細なものであっても、被害者が恐怖心を抱いていれば、脅迫罪の構成要件に該当する(ただし、行為者には脅迫の故意はなく、はいたずらのつもりであった場合には、客観的に脅迫罪にあたっても、故意がなければ、脅迫罪は成立しない。これに対して、一般人を基準にした場合、権利や法益に対する害悪の告知の一般的な特徴が問題になり、些細なものであれば、脅迫罪の構成要件には該当しないと判断される。被害者が臆病者であったため、恐怖心を抱いても、一般人に恐怖心を抱かせるような内容の告知でない、脅迫罪は成立しない。
 実在する人物の名前で、上記の文面の葉書を送った場合に脅迫罪が成立するか。しかも、出火の見舞状の体裁をとっている場合、それを受け取ったTはどのように感じるか。村の合併の住民投票をめぐって激しく対立している具体的な状況を踏まえると、どのような判断になるか。

【裁判所の判断】
 所論は要するに刑法222条の脅迫罪は同条所定の法益に対して害悪を加うべきことを告知することによって成立し、その害悪は一般に人を畏怖させるに足る程度のものでなければならないところ、本件2枚のはがきの各文面は、これを以下に解釈しても出火見舞いにすぎず、一般人が右葉書を受取っても放火される危険があるとの畏怖の念を生ずることはないであろうから、仮に右葉書が被告人によって差出されたものであるとしても被告人に脅迫罪の成立はない旨主張するけれど、本件におけるが如く、2つの派の抗争が熾烈になっている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに「出火見舞申上げます、火の元ご用心」、「出火見舞申上げます、火の要人に御注意」という趣旨の文面の葉書が舞込めば、火をつけられるのではないかと畏怖するのが通常であるから、右は一般に人を畏怖させるに足る性質のものであると解して、本件被告人に脅迫罪の成立を認めた原審の判断は相当である。

【解説】
 脅迫は、被害者またはその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える旨告知することによって成立する。本罪は、一般に人を畏怖させるに足りる「害悪の告知」によって成立し、実際に被害者が畏怖したという結果の発生は必要ではない。本罪は、「害悪の告知」という行為によって成立する「抽象的危険犯」である。
 脅迫にあたるか否かの判断基準として、一般人を基準にして判断される。しかも、抽象的な一般人ではなく、具体的な状況における一般人を基準に据えて判断される。
 本件では、村の合併を決定する住民投票が目前に迫り、村が橿原派と高田派に大きく分裂し、その対立が激化している時期において、橿原派の3人が高田派の実在する人物の名をかたって、高田派の中心人物に対して、実際に火災が発生したわけではないにもかかわらず、火災に見舞われたことを前提とする見舞葉書を送付した。そのような手紙やはがきを受け取ったとき、一般人であればどのように受け止め、感じるであろうか。自分の家に火がつけられるのではないかと畏怖するのではないか。裁判所はそのように受け止めるのが通常であると判断した。葉書の文面だけだと、「何かの間違い、誤解に基づいている」と理解することもできるが、具体的状況に置いて、その文面を読み返せば、それが意味することろが浮き彫りになる。

親権者による未成年者略取(最決平成17・12・6刑集59巻10号1901頁)

【事実の概要】
 被告人は、別居中の妻Aが養育しているB(2才)を連れ去ることを企て、某日の午後3時45分頃、Bが通う保育園の歩道上において、Aに代わって迎えに来たCが自動車にBを乗せる準備をしているすきに、背後からBを抱きかかえて、被告人の自動車に乗せて逃走した。その日の午後10時20分頃、被告人はBと一緒にいるところを、被害届を受けた警察により未成年者略取罪により逮捕された。

 Aは被告人を相手として、夫婦関係調整の調停や離婚訴訟を提起し、係争中であったが、本件当時、Bに対する被告人の親権ないし監護権について、これを制約するような法的処分は行われていなかった。

【争点】
 未成年者略取罪・誘拐罪の行為客体は、未成年者である。暴行・脅迫を用いて(略取)、または欺罔・誘惑を手段として(誘拐)、未成年者の意思に反して、その生活環境から離脱させ、誘略取者・誘拐者または第三者の事実的支配下に置くことによって成立する。

 未成年者を略取・誘拐することによって、どのような法益が侵害・危殆化されるのか。それは、未成年者の自由(現在ある生活環境において生活する自由)と同時に、両親・後見人などの監護権者、またはこれらに代わって未成年者を事実上監護する者の監督者などの監護権が侵害される。

 被告人とAは、離婚協議中であり、まだ正式に離婚が成立していない。その最中に、被告人が子どもB(幼児)をAと生活している生活権から引き離し、自己の事実的支配下に置いた場合、未成年者略取罪(誘拐)成立するか。被告人が自分の子どもであるBを連れ去ったこと自体は略取罪にあたらないが、Aが子どもに対する監護権を有している場合、その監護権の侵害が問題になる。

 この事案では、法的意味における監護権は誰にあったのか。さらに、事実上の監護をしていたのは誰であったのか。離婚の協議中であり、被告人の監護権を制約するような処分は行われていなかったが、事実上の監護はAが行っていた。その事実上の監護状態からBを離脱させ、自己の支配下に置くことによって、事実上の監護権が侵害されたといえか。

【裁判所の判断】
 本件において、被告人は、離婚係争中の他方親権者であるAの下からBを奪取して自分の手元に置こうとしたものであって、そのような行動に出ることにつき、Bの監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから、その行為は、親権者によるものであるとしても、正当なものということはできない。また、本件の行為態様が粗暴で強引なものであること、Bが自分の生活環境について判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること、その年齢上、常時監護養育が必要とされるのに、略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いことなどに徴すると、家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるものと評することもできない。以上によれば、本件行為につき、違法性が阻却されるべき事情は認められない。

【解説】
 離婚訴訟中の夫・被告人が、子どもBを養育している妻AからBを連れ去る行為は、未成年者略取罪・誘拐罪にあたるか。A・Bが離婚訴訟を行い、すでに別居中である場合に、子どもBを誰が監護するのか、その権利がAにあることが明確にされている場合、夫がBを略取する行為は、Aの監護権を侵害しているので、未成年者略取罪が成立するといえる。

 被告人に監護権がないことが明確ではない場合、つまり被告人にも監護権がないとはいえない場合、Aの監護権の侵害だけでは、未成年者略取罪の成立を認めることはできない。外形的に未成年者略取罪の構成要件に該当する行為であっても、被告人の監護権が実現されているので、実質的に見て違法性が阻却される。

 監護権が誰に帰属するのか、Aだけか、それとも被告人にも認められるのか。この問題は、まずもって法的に決定・確認できる問題である。それが法的に明確にされていれば、特段の問題は発生しない。しかし、それが法的に決定・確認されず、不明確であったり、また決定されていても、移行期にあるような場合、監護権の帰属という形式的な基準だけでは判断できない。子どもを実際に監護しているのは誰なのかという事実的・実質的な意味における監護状態をも含めて判断しなければ、妥当な結論を導き出せない。

 本件のように、被告人は子どもBを監護しているAに断りなく、自分の元に置いた。それは親権者である被告人によるものであっても許されない。何故ならば、その行為態様は「背後から抱きかかえる」という粗暴で強引なものであること、自分で判断できない2才のBに対するものであること、年齢的に常時監護が必要な年齢であるにもかかわらず、そのような監護を提供しうる確たる見通しが被告人にはなかったこと、このような事情を踏まえると、たとえ被告人に形式的な監護権が認められても、それは相対的に縮小され、その分だけAによる監護権が優越しているといえる。たとえ被告人とAの間に正式に離婚が成立していない状況にあっても、夫である被告人が妻のAの監護権を侵害することは社会通念上、許容されない。被告人は、違法性阻却を主張するが、それは認められない。

安否を憂慮する者の意義(最決昭和62・3・24刑集41巻2号197頁)

【事実の概要】
 被告人Xは、自己が経営する金融業の資金を某銀行から獲得しようと考え、友人Yと共謀して、同銀行の取締役Vが乗車し、Dが運転する自動車を襲って、ホテルの一室に連れ込んで換金したうえ、畏怖しているVを介して、銀行取締役Wらに対して、「現金3億円準備してくれ」と電話で告げさせて、身代金を要求した。

 第1審は、Vに対する身代金目的略取罪の成立を認めた。その際、WとVは、同じ年に銀行に入社し、個人的にも親密な交流があったなどの理由から、Wは「略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」にあたると判断した。原審もそれを是認した。被告人・弁護人が上告した。

【争点】
 略取・誘拐罪には、いくつかの類型がある。
 未成年者を略取・誘拐する行為。この行為は、未成年者を略取・誘拐することで成立し、何らかの目的がなくても成立する。

 わいせつ目的等略取・誘拐罪は、わいせつ行為を行うなどの目的に基づいて人を略取・誘拐した場合に成立する。「わいせつ目的」などから「未成年者」を略取・誘拐した場合、その1個の行為によってわいせつ目的略取・誘拐罪と未成年者略取・誘拐罪が成立する。両罪は観念的競合の関係に立ち、重い方の未成年者略取・誘拐罪罪の法定刑で処断される。

 身の代金目的略取罪・誘拐罪とは、被拐取者の「近親者」または「被拐取者の安否を憂慮する者」に対して、被拐取者の安否の憂慮に乗じて財物(身代金)を交付させる目的で、人を略取・誘拐する行為である。「身の代金を交付させる目的」に基づいて「未成年者」を略取・誘拐した場合、重い方の身の代金目的略取・誘拐罪の法定刑で処断される。
 この犯罪では、誰に対して身の代金を要求するのかが明確に定められている。近親者と略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者である。
 近親者とは、直系血族、配偶者、兄弟姉妹である。「親族」よりも狭いので、義理の兄弟姉妹は含まれない。
 略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者とは、略取・誘拐された者との間に特別な人間関係が存在するため、略取・誘拐された者の生命、身体、自由に対する危険を近親者と同程度に親身になって心配する者のことである。危険を回避するためには、いかなる財産的犠牲もいとわないであって、近親者が苦境しているのを見て同情心から心配する者は含まれない。
 本件ではWとVの関係が問題になった。WとVは、同じ年に銀行に入社し、個人的にも親密な交流があった。しかも、2人とも銀行の取締役である。このような人的・職務的な関係を踏まえると、Wは「略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」にあたるのか。

【裁判所の判断】
 刑法225条の2にいう近親者その他被拐取者の安否を憂慮する者には、「単なる同情から被拐取者の安否を気づかうにすぎないとみられる第3者は含まれないが、被拐取者の近親でなくとも、被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが、社会通念上当然とみられる特別な関係にある者はこれに含まれる」。「相互銀行の代表取締役社長が拐取された場合における同銀行幹部らは、被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係にある者にあたる」。

【解説】
 誘拐された被害者人との間において、どのような関係があれば、その人は「拐取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」にあたるのか。

 例えば、人気のある俳優が身の代金目的で誘拐されたとき、その近親者だけでなく、事務所関係者、またファンは、誘拐された俳優の身の安全を心配するであろう。ただし、そのように心配するからといっても、事務所関係者やファンが身の代の金目的略取・誘拐罪にいう「被拐取者の安否を憂慮する者」に該当するわけではない。「安否を憂慮する者」とは、略取・誘拐された者との間に特別な人間関係が存在するため、その生命、身体、自由に対する危険を「近親者と同程度に」親身になって心配する者のことであって、同情心から心配しているだけでは、「安否を憂慮する者」に該当はあたらない。

 身の代金目的略取・誘拐罪の成立範囲を明確にするためには、身の代金の交付を求める対象を限定することが必要である。判例は、被拐取者との間に近親者と同じくらい親身になって安否を憂慮する「特別な関係」がある者に限定している。従って、安否を憂慮しているという事実があるかどうかではなく、特別な関係があるかどうかが重要な判断基準になる。

強制わいせつ罪における主観的要素(最判昭和45・1・29刑集24巻1号1頁)

【事実の概要】
 被告人は、内縁の女性Aに対して、「よくも俺を騙したな。あんたに仕返しに来た。お前の顔に硫酸をかければ醜くなる」などと脅迫し、許しを請うAに対して、裸の写真をとって仕返ししようと考え、「5分間裸になって立っておれ」と申し向け、畏怖しているAを裸にさせて写真を撮影した。

 第1審は、強制わいせつ罪(刑法176条)の成立を認めた。本罪の保護法益は、相手の性的自由(性的な事柄に関わる自己決定権)であり、暴行・脅迫によりそれが侵害されていれば、強制わいせつ罪の構成要件該当性を認めることができる。その場合、わいせつな行為を行う者に性欲を興奮、刺激、満足させる目的があることは必要ではなく、報復、侮辱の目的からなされた場合でも、強制わいせつ罪の成立を認めることができる。第1審は、強制わいせつ罪をこのように説明した。控訴審もこの判断を是認した。

 これに対して、被告人が上告した。

【争点】
 わいせつな行為とは、どのような行為をいうのか。

 強制わいせつ罪の保護法益を「被害者の性的自己決定権」という内容において客観的に捉え、それを侵害する行為は「わいせつ行為」にあたると解するならば、行為者が「性欲を興奮、刺激、満足させる目的」(性的意図)から行っていなくても、強制わいせつ罪の構成要件該当性を認めることができる。故意の成否に関しては、そのような法益侵害の認識があれば(被害者が嫌がっているなど)、故意の成立を認めることができる。

 これに対して、裸の写真を撮影するという事実がが「わいせつな行為」を行っているという法的な評価を受けるためには、客観的に見て性的自由を侵害しているという事実だけでなく、行為者に性的意図があったという事実が必要であると解すると、本件では、報復の意図しか認められていないので、「わいせつな行為」が行われたと評価することはできないことになる。

 例えば、行為者が、電車のドア付近に外を見ながら立っているジーンズの女性の後ろポケットに手を入れたとする。この行為は何罪の構成要件に該当するか。

 女性は、「この人、痴漢です!」と大声で叫んだ。逮捕された行為者は、警察官に対して、「ポケットの携帯電話を盗ろうとしただけです」と話した。被害者の財産権を侵害する意図があっただけで、被害者の性的自己決定権を侵害するつもりはなかった。行為者が、ポケットの携帯電話を盗ろうとしていた場合、その行為は窃盗未遂罪の構成要件に該当する。かりに、行為者が被害者の尻を触ろうとしていたのでれば、それは強制わいせつ罪の構成要件に該当する。このように同じ行為であっても、行為者の認識によって法的評価が変わり得ることがある。

 では、あらためて考えると、わいせつな行為とは、どのような行為をいうのだろうか。

【裁判所の判断】
 刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪そのたの罪を構成するのは格別、強制わいせつ罪は成立しないというべきである。
 もっとも、年若い婦女……を脅迫して裸体にさせることは、性欲の刺戟、興奮等性的意図に出ることが多いと考えられるので、本件の場合においても、審理を尽くせば、報復の意図のほかに右性的意図の存在も認められるかもしれない。しかし、第1審判決は、報復の意図に出た事実だけを認定し、右性的意図の存したことは認定していないし、……本件のような行為は、その行為自体が直ちに行為者に前記性的意図の存することを示すものとはいえないのである。

【解説】
 被害者を裸にして、むりやり裸の写真をとった行為は、強制わいせつ罪の構成要件に該当するか。被害者は、行為者の前で裸になる義務はない。にもかかわらず、服を脱ぐよう強いられた。そして、恥ずかしい思いをさせられた。このような場合、被害者は強制わいせつの被害にあったという意識を持つであろう。しかし、行為者にわいせつな目的はなく、報復の目的から、義務のないことを強いたという認識しかなかったならば、強要罪が成立しそうである。

 最高裁は、本件の事案について、刑法176条の強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が性的意図のもとに行われていなければならず、報復の目的から行われた場合には、強制わいせつ罪は成立せず、強要罪にとどまると判断した。ただし、報復の目的と性的意図は併存することが可能であるので、原々審と原審は、報復の意図だけ認定して、性的意図が併存していたのかという点についても審理を尽くすべきであったと指摘した。ただし、最高裁は、現在ではこの判例を変更し、性的意図がなくても、強制わいせつ罪が成立が認められるとしている。

強制わいせつ致傷罪の成否(最決平成20・1・22刑集62巻1号1頁)

【事実の概要】
 被告人Xは、某日の深夜、被害者A宅に侵入し、Aが就寝中であることに乗じて、その下着の上から陰部を手指でもてあそんだ。それに気づいたAが、「お前、だれやねん」などと強い口調で問いただし、X着用のTシャツの背部を両手でつかんだ。すると、Xはその場から逃走するため、Aを引きづったり、自己の上半身を左右にひねるなどし、その結果、Aに傷害を負わせた。第1審は、被告人Xに準強制わいせつ致傷罪の成立を認めた。
 準強制わいせつ罪は、人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または人を心神喪失にさせ、もしくは抗拒不能にして、わいせつな行為をした場合に成立し(刑法178条)、その行為から人を死傷させた場合、準強制わいせつ致死傷罪が成立する(181条1項)。
 被害者Aは就寝中であり、行為者による侵襲に対して抵抗できない状態にあったので、抗拒不能の状態にあったと評価できる。XはAの下着の上から陰部を触ったので、わいせつな行為を行ったといえる。また、Xは現場から逃走するために、Aに傷害を負わせたので、準強制わいせつ行為から傷害を発生させたといえる。Aの傷害は、わいせつ行為から直接発生したものではない。その行為が終了した後、Aによる逮捕を免れ、その場から逃走するために行われた行為から発生したものである。しかし、逃走のための行為は、「準強制わいせつ行為に時間的・場所的に接着して行われたもの」であり、それゆえ準強制わいせつ行為と傷害の因果関係を認めることができる。第1審裁判所は、このように判断した。これに対して被告人が控訴したが、控訴審は第1審の判断を維持した。

 これに対して被告人が、準強制わいせつ行為と傷害との因果関係を認めることはできないと主張して、上告した。被告人は、準強制わいせつ罪が終了した後、Tシャツを捕まえた被害者に積極的に攻撃を加えるなどしたわけではなく、Aの手を振り払うために行なった行為から傷害を負わせたのであって、準強制わいせつ罪と傷害とが時間的・場所的に接着していたからといって、わいせつ行為と傷害との間に因果関係を認めることはできないと主張した(したがって、準強制わいせつ罪と傷害罪の2罪が成立する。前者は性的自己決定権侵害、後者は生理的機能侵害であり、2個の行為によって異なる2個の法益を侵害したので、両罪は併合罪の関係に立つと考えることができるが、時間的・場所的に近接し、同一の被害者に対して行なったことに着目すると、混合的包括一罪として扱い、重い方の傷害罪として扱うこともできる)。

【争点】
 強制・準強制わいせつ致死傷罪は、結果的加重犯である。基本犯である強制わいせつ罪(暴行・脅迫→わいせつ行為)・準強制わいせつ罪(心神喪失・抗拒不能に乗じ→わいせつ行為または心神喪失・抗拒不能に陥れる行為→わいせつ行為)を故意に行い、よって死傷を発生させた場合に成立する。
 加重結果である致死は、一般に暴行・脅迫に起因し、また心神喪失・抗拒不能に乗じたときの行為、その状態に陥れたときの行為に起因すると解される(手段説)。では、本件のように、強制・準強制わいせつ罪が終了し、その場から逃走する際に行われた暴行から傷害が発生した場合、どのように評価すべきか。第1審と控訴審は、「準強制わいせつ行為」と「現場から逃走するための暴行」とが時間的・場所的に接着し、逃走のための暴行が準強制わいせつ罪に随伴するものであった、またはその機会に行われたことを理由に、傷害と因果関係があるのは準強制わいせつ行為であると判断した(随伴説・機会説)。

【裁判所の判断】
 上記事実関係によれば、Xは、Aが目を覚まし、XのTシャツをつかむなどしたことによって、わいせつな行為を行なう意思を喪失した後に、その場から逃走するため、Aに対して暴行を加えたものであるから、Xのこのような暴行は、上記準強制わいせ行為に随伴するものといえるから、これによって生じた上記Aの傷害について強制わいせつ致傷罪が成立するというべきであり、これと同旨の原判断は正当である。

【解説】
 最高裁は、被告人が逃走するために行なった暴行は、準強制わいせつ行為と随伴するものであることを理由に、暴行から生じた傷害は、強制わいせつ致傷罪の加重結果である致傷として認定した。
 第1審と控訴審は、準強制わいせつ行為と逃走のための暴行との時間的・場所的な接着性を根拠にして、準強制わいせつ行為と傷害との因果関係を認めた(わいせつ行為と暴行の時間的・場所的接着性)。最高裁は、それに言及せず、逃走のための暴行が準強制わいせつ行為に随伴することを理由として挙げた(わいせつ行為に対する暴行の随伴性)。
 時間的・場所的な接着性があれば、随伴性のあることを認める理由になるが、接着性がなくても、随伴性が肯定される可能性があるならば、最高裁は準強制わいせつ致死傷罪の成立範囲を少し拡大したのではないかと思われる。
 なお、被告人が、準強制わいせつ罪の終了後、被害者が負傷したのは、被告人が逃走する過程において行われた(消極的な)暴行によるものであって、積極的に攻撃を加えるなどした結果ではないと主張したが、それは事後強盗罪(刑法238条)において窃盗後に「逮捕を免れるための暴行」を定めた場合に強盗罪として扱われること念頭に置いているからであろう。事後強盗罪の規定は、窃盗の被害者に対する「積極的な暴行」だけでなく、逮捕を免れるための「消極的な暴行」からも死傷が発生した場合に強盗致死傷罪が成立することを認めている。強制わいせつ・準強制わいせつ致死傷罪の条文も、このような条文になっているのであれば、本件の場合、準強制わいせつ致傷罪の成立を認めることができるが、そのような条文になっていないので、逮捕を免れるための消極的な暴行から傷害が発生した場合は、準強制わいせつ罪と傷害罪の2罪の成立を認めるべきであると、被告人は主張しているようである。検討に値する論点を含んでいる。

住居侵入罪の保護法益(最判昭和58・4・8刑集37巻3号215頁)

【事実の概要】
 郵便局員の被告人らは、労働組合活動の一環として、A郵便局内にビラを貼るなどするために、某日の午後9時30分ころ、施錠されていないA郵便局の通用門から中庭に入り、宿直をしていた局員に対相手、「おい来たぞ」と声をかけて、どそくのまま局舎内に立ち入り、ビラを貼った。午後10時ころ、見回りに来た局長Bに発見され、制止されるなどし、言い合いの末、午後10時45分ころに郵便局から退出した。

 Bは、組合のビラ貼りを制止するために、代理Cとともに夜間、A郵便局を見回りするなどしていたが、A郵便局の局員の大半が労働組合員であったために、宿直員にビラ貼り拒否等の指示をしてはいなかった。

【争点】
 住居侵入罪や建造物侵入罪の保護法益は何か。住居侵入罪の保護法益は、居住者の立ち入りの許諾権(住居内に誰の立ち入りを許可し、誰の立ち入りを拒否するかの意思決定の自由)である。建造物侵入罪の場合、建造物の管理権者による許諾権である。

 建造物の管理権者が、建物の出入口におらず、守衛係や宿直員に対して、誰の立ち入りを許可し、拒否するのかを詳細に指示していた場合、守衛係や宿直員が拒否したにもかかわらず、建物に立ち入れば、その人の立ち入り行為は建造物侵入罪の構成要件に該当する。

 では、建造物の管理権者が、守衛係や宿直員に対して、誰の立ち入りを許可し、拒否するのかをあらかじめ指示していなかったので、守衛係や宿直員から許可を得て立ち入った場合、どうなるのか。守衛係の許可を得ていたので、それは通常の立ち入りであり、建造物侵入罪にはあたらないのか。それとも、建造物の管理権者がその場にいたならば、立ち入りを拒否したであろうと合理的に判断できる場合には、たとえ守衛係が許可をしても、その許可は無効であり、建造物侵入罪の構成要件に該当するのか。

【裁判所の判断】
 刑法130条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立ち入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立ち入りの目的などからみて、現に行われた立ち入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同罪の罪の成立を免れないというべきである。

【解説】
 最高裁は、建造物侵入罪の保護法益を建造物の管理権者の意思(誰の立ち入りを認め、誰の立ち入りを拒むかの許諾権)であるとの立場から、その意思が事前に明らかにされていない本件の事案について、その許諾権の侵害の成否の判断を示した。

 建造物(県・市舎庁舎、公立・私立図書館、学校の校舎、コンサートホール、劇場・映画館・美術館など)には所有者・管理権者が存在し、所有者・管理権者にその建造物の使用・利用を決定する権利がある。その建造物に誰の立ち入りを許可・拒否するのかも、その人の権利に属する。

 所有者・管理賢者が、日常的にその建造物を管理していることはなく、管理会社に委託し、その会社の社員が委託された管理業務を担い、委託内容どおりに業務に従事することが義務付けられている。

 管理会社の社員が、委託内容に明記されていない場面に遭遇し、その判断に基づいて、建造物への立ち入りを許可したが、建造物の所有者・管理賢者の意思に反しているような場合、どのように判断すべきか。

 本件では、郵便局の建物の管理権者(局長B)は、通用門で勤務していた局員に対して、「本郵便局員であっても、組合のビラを貼り目的で来る場合には立ち入りを許可しない」と、あらかじめ立ち入り拒否の意思を積極的に明示していなかったが、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立ち入りの目的などからみて、(かりにその場にいたならば)現に行われた立ち入り行為を管理権者が容認していない(許容しなかったであろう)と合理的に判断されるときは、建造物侵入罪が成立すると判断された。

 この判断は、被告人がビラを貼っているところにBが来て、言い合いになったことを理由に、さかのぼって建物への立ち入りが「建造物侵入」になったのではない。もしも被告人が通用門から建物に立ち入りときに、Bがその場にいたならば、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立ち入りの目的などからみて、被告人の立ち入り行為を容認しなかったであろうと判断でき、その判断に合理性があるから、被告人が立ち入ったその時点で、建造物侵入罪が成立するのである。

 ただし、被告人は通用門の郵便局員に許可を得て立ち入ったでの、建造物侵入の故意はなかたっと主張するかもしれない。それは、建造物侵入罪の故意の問題であって、それ以前の構成要件該当性の問題ではない。

集合住宅の共用部分への立入り(最判平成21・11・30刑集63間9号1765頁)

【事実の概要】
 被告人は、政党の葛飾区議だより等のビラの配布を知人から依頼され、某日(祝日)の午後2時ころ、本件マンションに配布するため、マンション玄関出入口から玄関ホールに入り、ホール奥のガラス製ドアを開け、1回廊下を経て、エレベーターで7階に上がり、各階各住戸のドアポストにビラを投かんしながら、外階段を伝って3階に至ったところを、住人に声をかけられてビラの投かんを中止した。
 本件マンションの掲示板には、マンションの管理組合名義で「チラシ・パンフレット等広告の投かんは固く禁じます」と記載されたはり紙と、同管理組合名義で「当マンションの敷地内に立ち入り、パンフレットの投函、物品販売などを行うことは厳禁です。」などと書かれたはり紙が貼られ、管理組合理事会も、パンフレット、ビラ、チラシなどの投かんのためのマンション内への立ち入りに関して、区の広報以外は、禁止する旨決定していた。被告人は、住居侵入罪で起訴された。
 第1審は、被告人の行為は住居侵入罪の構成要件該当を欠くとする判断を示した。住居侵入罪は、「正当な理由のない住居への侵入」であり、社会通念通念に照らして許容されない場合、「正当な理由」がないと判断されるのであって、マンションの各戸へのビラ配布のためのマンションへの共用部分への短時間の立ち入りが、住居侵入罪にあたる違法な行為であるという社会的な共通認識は確立していない。確かに、マンション管理組合は、ビラ配布のための立ち入りを禁止しているので、被告人の行為はその意思に反するが、その禁止措置がマンションに来訪する者に伝わるような実効的措置がとられていたとはいえない。従って、被告人の行為は正当な理由のない侵入にはあたらない。
 これに対して、控訴審では、住居侵入罪の成立が認められた。①管理組合がビラ配布を禁止し、被告人もそれを認識していた。②管理人が常駐していなくても、オートロックなどで部外者の立ち入りを禁止できること。③本件のようなマンションへの部外者の立ち入りは広く認められている社会情勢にはないこと。少なくとも、ホール奥のガラス製ドアより先に立ち入ることが禁止されていることは、玄関ホールなどのはり紙で来訪者に伝わるよう措置が取られ、被告人も自分の立ち入りが管理権者の意思に反するものであることを認識していた。これらの事情から、住居侵入罪の成立が認められた。

【争点】
 マンションなどの集合住宅の共用部分への立ち入りと住居侵入罪の関係をどのように考えるべきか。
 集合住宅は、各戸の住居部分(占有スペース部分)と玄関、集合ポスト、階段、廊下、屋上などの共用部分から成り立っている。住居部分に許可なく入れば、住居侵入罪に該当することは明らかであるが、共用部分に許可なく立ち入った場合はどうか。
 玄関ポストなどの共用部分への立ち入りは、一般に郵便配達員、新聞配達員、宅配業者などに許可されているの。では、広告やチラシ、地域情報誌などの配達員はどうか。それが許可されている集合住宅は多くあるように思われる。ただし、オートロックされ、それを暗証番号などで開かなければ建物に入れない集合住宅の場合、集合ポストまでの立ち入りは一般に許可され、それ以上の場所への立ち入りは、個別に許可されている者に限り(例えば清掃業者、メンテナンス業者など)、許されているのが現状であろう。従って、個別の許可を得ずに立ち入ると、それは正当な理由のない侵入にあたる。
 本件のようなオートロックされていない集合住宅の共用部分への立ち入りは、どのように考えるべきか。

【裁判所の判断】
 本件マンションの構造及び管理状況、玄関ホール内の状況、上記はり紙の記載内容、本件立入りの目的などからみて、本件立入り行為が本件管理組合の意思に反するものであることは明らかであり、被告人もこれを認識していたものと認められる。そして、本件マンションは分譲マンションであり、本件立入り行為の態様は玄関内東側ドアを開けて7階から3階までの本件マンションの廊下等に立ち入ったというものであることなどに照らすと、法益侵害の程度が極めて軽微なものであったということはできず、他に犯罪の成立を阻却すべき事情は認められないから、本件立入り行為について刑法130条前段の罪が成立するというべきである。……確かに、表現の自由は、民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならず、本件ビラのような政党の政治的意見等を記載したビラの配布は、表現の自由の行使ということができる。しかしながら、憲法21条1項も、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって、たとえ思想を外部に表現するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないというべきである(省略)。本件では、表現そのものを処罰することの憲法適合性が問われているのではなく、表現の手段すなわちビラ配布のために本件管理組合の承諾なく本件マンション内に立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われているところ、本件で被告人が立ち入った場所は、本件マンションの住人らが私的生活を営む場所である住宅の共用部分であり、その所有者によって構成される本件管理組合がそのような場所として管理していたもので、一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいっても、そこに本件管理組合の意思に反して立ち入ることは、本件管理組合の管理権を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む私生活の平穏を侵害するものといわざるをえない。

【解説】
 本件では、マンションンの管理組合の意思が意思に反して立ち入った行為は、正当な理由のない侵入にあたるとして、住居侵入罪の成立が認められた。それは、政党ビラだからだめで、宅配ピザのチラシならよいというビラの内容の問題ではない。本件マンションの住人らが、私的生活を営む場所である住宅の共用部分であり、その所有者によって構成される本件管理組合がそのような場所として管理していたことから、そこは一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。それゆえに住居侵入罪が成立すると判断された。

建造物侵入の意義(最決平成19・7・27刑集61巻5号379頁)

【事実の概要】
 被告人らは、銀行支店出張所に設置された現金自動預払機の利用客のカードの暗証番号を盗撮する目的で、出張所の営業中に、同営業所に立ち入った。そして、客を装って現金自動預払機1台を占拠した。

 第1審は、被告人らに建造物侵入罪と偽計業務妨害罪の共同正犯が成立し、懲役3年を言い渡した。被告人らが控訴したが、控訴審は控訴を棄却した。これに被告人らが上告した。

【争点】
 銀行利用者のカードの暗証番号を盗撮する目的で、同銀行のATMに立ち入る行為は建造物侵入罪にあたるのか。

【裁判所の判断】
 以上の事実関係によれば、被告人らは、現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入ったものであり、そのような立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるから、その立ち入りの外観が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでなくても、建造物侵入罪が成立するというべきである。

【解説】
 銀行の受付カウンターやATMなどは、利用客が自由に立ち入ることが許可されている場所であるが、それは銀行の利用客として、金銭の預け払いをし、また融資の相談などをする目的を有する者に許可されているのであって、その場において違法行為を行う者には許可されていない。このことは当然である。

 かりに、違法な行為を行う目的で銀行の建物内に立ち入り、そこで強盗であるとか、窃盗を行えば、強盗罪や窃盗罪で処罰することができるが、建造物侵入罪の成立まで認める必要はあるか。たとえ建造物侵入罪の成立が認められても、それは強盗罪や窃盗罪を行うための手段として行われたので、建造物侵入罪と強盗罪・窃盗罪は刑法54条後段の牽連犯(けんれんぱん)にあたり、重い方の強盗罪や窃盗罪で処罰され、軽い方の建造物侵入罪が問題にはならない。

 このように強盗罪や窃盗罪などの目的・結果の犯罪が行われれば、建造物侵入罪の成立を議論する実益はないが、かりに違法な行為が行われなかった場合は、建造物侵入罪の成立を認めなければ、不処罰になるので、その議論をすべき実益は大きい(ただし、本件では偽計業務妨害罪が成立すると判断されている)。

 本件の事案においても、管理権者である銀行支店長の意思に反した立ち入りであるとして、建造物侵入罪の成立が肯定されている。

 盗撮目的による女子トイレ、更衣室などへの立ち入りという類似の事案においても、建造物侵入罪の成立が認められている。

タイトルとURLをコピーしました