刑事重要判例資料集 解説付き「犯人の意義 隠匿・証拠隠滅 虚偽供述etc.」

「犯人」の意義(最判昭和24・8・9刑集3巻9号1440頁)

【事実の概要】
 被告人Aは、恐喝事件の被疑者として逮捕状を発せられていたBを、逃走中であることを認識した上で自己の家に一定期間宿泊させてこれを蔵匿した。

 原審東京高裁は、Aの行為は刑法103条の犯人蔵匿罪として捕捉される旨判示し、Aに懲役2年を言い渡した。

 これに対して被告人が上告した。被告人は、刑法103条の犯人蔵匿罪は、「罰金刑以上の罪を犯した者」と規定しているので、被蔵匿者の犯罪事実が確定しない以上、犯人蔵匿罪は成立しないと解すべきであり、それが文理解釈上当然の帰結であると主張した。そして、本犯者であるBの恐喝被告事件はいまだ地方裁判所で審理中であり、罪を犯したとの認定を受け否かは不明であると主張した。

【争点】
 犯人蔵匿罪は、社会的法益に対する罪の一つである。その法益は、司法作用の執行である。法治国家である日本において、立法・行政・司法における権限の発動・行使は、いずれも法によって規制・統制されている。そのなかでも司法権は、民事・刑事を問わず、ある事案について法を適用する重要な領域であり、その作用が円滑かつ確実に執行されていることは、法それ自体が実現されることにつながる。その作用を妨害する行為は、司法作用に対する罪として処罰される。

 犯人蔵匿罪は、罰金刑以上の罪を犯した者に対して刑罰法規を適用し、適正な処罰をする刑事司法の作用を妨害する行為である。それは、罰金刑以上の罪を犯した者が犯罪捜査機関の捜査や逮捕を免れるために、それに一定の場所を提供するなどして「匿う(かくまう)」行為である。

 では、本罪の行為客体である「罰金刑以上の罪を犯した者」とは、いかなる意味で理解されるべきか。罰金刑以上の罪を犯した事実が認定され、それに対して刑罰法規が適用され、裁判が確定している者だけを指すのか(真犯人説)。それとも、罰金刑以上の罪を犯したという嫌疑をかけられている者も含まれるのか(非真犯人説または被疑者説)。

 条文では「罰金刑以上の罪を犯した者」と規定されているので、「真犯人」に限られると読むことができる。ただし、このような行為を処罰する目的が司法作用の円滑で適正な行使であることを踏まえると、そのような司法作用を阻害する限りで、真犯人だけでなく、被疑者も含まれると解釈することもできる。しかも、真犯人であることは、刑事司法の適正な行使がなされて初めて明らかになるのであって、そのような真犯人を匿っても、さかのぼって司法作用が阻害されることは考えられないので、本罪は真犯人ではなく、むしろ被疑者を念頭において規定されていると解することもできる。

【裁判所の判断】
 刑法103条は、司法に関する国権の作用を妨害する者を処罰することを目的として設けられた規定である。その立法の趣旨と目的に鑑みると、「罪を犯した者」は、犯罪の嫌疑によって捜査中の者を含む。そのように解釈しなくては、立法の目的を達しえない。

【解説】
 被疑者が「真犯人」であるかどうかは司法判断を経て決まる。そのためには、被疑者を捉え、被告人として裁判にかける必要がある。従って、裁判を行なうためには、被疑者を蔵匿する行為を規制しなければならない。従って、「罪を犯した者」には真犯人はもちろん、被疑者も含まれる。

捜査段階における参考人の隠匿と証拠隠滅罪の成立(最決昭和36・8・17刑集15巻7号1293頁)

【事実の概要】
 AらがVに対して殺人未遂事件を行ったとして、その捜査が行われていた。Bは、Aの配下にある者であり、彼に対しても、Aと共謀したと疑われ、殺人未遂事件の被疑者として逮捕状が発布されていた(結果的に起訴されなかった。つまり殺人未遂の犯人ではないと判断された)。
 被告人は、Bからの依頼に応えて、な事情を知らない知人のところに、約5日間、Bを宿泊させた。被告人は、Bが上記殺人未遂事件の犯人の1人ではないが(Bには逮捕状が発布されていないと認識していたが)、同事件につき重要な知識を有しているため、捜査機関から追及されているという認識を持っていた。
 第1審は、被告人は、Bが捜査中の殺人未遂事件について重要な知識を有するものとして捜査官憲から取り調べられるべきものであることを察知しながら、Bを知人宅に宿泊させたという事実を認定し、それが他人の刑事事件(Aによる殺人未遂事件)に関する証憑(証拠)を湮滅(いんめつ・隠滅)したことにあたると認定し、刑法104条の証憑湮滅罪(証拠隠滅罪)の成立を認めた。
 これに対して被告人が控訴した。Bには殺人未遂事件の被疑者として逮捕状が発布されていたが、被告人はそのような事実を知らずに、Bを匿っただけなので、犯人(被疑者)を蔵匿したことにつき故意はないのであるから、また結果的に不起訴になったのであるから犯人蔵匿罪は成立しない。また、たとえBが殺人未遂事件の証拠(目撃者など)たりうる者であっても、それは捜査段階における参考人にすぎない。参考人には出頭や供述を拒む自由がある。そのために、他人の家に宿泊して、身を隠すことは参考人に認められた基本的な権利である。被告人は、Bが殺人未遂の被疑者として逮捕状が発布されていることを知らずに、Bが参考人であるために捜査機関から追及を受け、そのことを Bが拒否しようとしていただけだと認識して、Bに身を隠す家を提供しただけであり、それはBの自由な行為に協力しただけであるので、証拠隠滅罪にはあたらないと主張した。
 控訴審は、証拠隠滅罪は司法権の発動を阻害する行為を禁止するものであるから、捜査段階における参考人にすぎない者も刑法104条の証拠にあたり、そのような参考人を隠匿すれば証拠隠滅罪が成立すると判断した。また、Bは殺人未遂事件の被疑者として逮捕状が発布されていたが、そのような事実があっても、Bが証拠であることは妨げられないとも判断した。
 これに対して被告人が上告した。

【争点】
 罰金刑以上の罪を犯した、また犯したと疑われている者に住居などを提供して、犯罪捜査を妨害する行為は、刑事司法の適正な作用を妨害するものであり、犯人蔵匿罪にあたる。
 では、そのような「犯人」ではないもので、捜査段階での参考人に住居などを提供する行為は、どのように認定されるのか。それが証拠隠滅罪にあたるとするならば、参考人は刑事事件の「証拠」にあたることが前提となる。
 また、参考人が「証拠」にあたることを前提とした場合、被疑者を参考人と認識して隠匿する行為は、客観的には犯人蔵匿罪の構成要件該当行為を行っているが、主観的には証拠隠滅罪を行っているという認識しかない。このような場合、抽象的事実の錯誤の問題として位置づけ、法定的符合説を適用して、構成要件の重なる範囲、すなわち証拠隠滅罪の範囲で罪が成立すると判断することができるのか。保護法益と行為態様の共通性があれば、構成要件 の重なり合いを認めることができる。

【裁判所の判断】
 なお、刑法104条の証憑湮滅(しょうひょういんめつ)罪は、犯罪者に対する司法権の発動を阻害する行為を禁止しようとする法意に出ているものであるから、捜査段階における参考人に過ぎない者も右法条にいわゆる「他人の刑事被告事件に関する証憑」たるに妨げなく、これを隠匿すれば証憑湮滅罪が成立するものと解すべきであり、且つまた原判決の是認した第1審判決の確定した事実関係の下では被告人について犯人隠匿罪の成立する余地がないものとした原裁判所の判断は当審もこれっを正当として是認する。

【解説】
 犯罪の被疑者(真犯人も、非真犯人も含む)を逮捕して、刑事裁判にかけて、その真相を明らかにして、刑罰法規を適用することは、刑事司法の重要な役割である。それを阻害する行為は司法作用に対する罪として処罰される。被疑者を匿ったり、その逃亡を手助けすれば、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪にあたる。被疑者でなくても、他人の刑事事件に関する証拠となりうる者を匿ったりすれば、証拠隠滅罪にあたる。
 ただし、他人の刑事事件の参考人には、出頭や供述を拒否する自由がある。犯罪捜査機関は、参考人を説得して、任意に出頭と供述してもらうだけである。それを拒むのは参考人自身の自由であるが、その自由な行為に第三者が協力するために住居などを提供すると、それは他人の刑事事件の証拠(つまり参考人)を隠滅することになる。つまり、参考人が自分自身で出頭・供述を拒否するのは適法であるが、それに第三者が協力するのは違法であるということである。
 なお、証拠(証憑)には、殺人未遂に使用されたナイフのような道具だけでなく、それを目的していたと思われるBのような参考人なども含まれる。

参考人の虚偽供述と証拠偽造罪(千葉地判平成7・6・2判時1535号144頁、判タ949号244頁)

【事実の概要】
 被告人は、①法定の除外事由がないのに覚せい剤を使用して逮捕された。そして、②覚せい剤取締法違反で勾留中の被疑者Aの参考人として取調べを受けた際に、Aに有利な処分(不起訴処分や起訴猶予処分)を得させるため、甲地方検査庁検察官室において、担当検察官に対し、Aに覚せい剤を譲り渡したことがないのに、「東京新宿の乙という建物の前道路で、Aという男にカプセルに入れた覚せい剤1個をただでくれてやりました。Aはかぜをひいたと言うので、私がかなりききますよ、と言って風邪薬のような意味で渡したのです」などと虚偽の事実を供述して、内容虚偽の検察官調書を作成させた(Aは覚せい剤を風邪薬と認識していた可能性があり、それゆえ覚せい剤の自己使用 罪の故意が認められない可能性がある)。もって、他人の刑事被告事件に関する証拠を偽造したとして起訴された。

【争点】
 他人の刑事事件の参考人として取調べを受けた際に、捜査官に対して虚偽の事実を述べて、捜査官に虚偽内容の供述調書を作成した場合、何罪に問われるのか。

 例えば、Aが殺人罪を行い、Bがその証拠を隠せば「証拠隠滅」、現場に遺留品と見せかけて、証拠らしきものを置けば「証拠偽造」、すでに存在する証拠に加工すれば「証拠変造」にあたる。いずれも、Bが自ら行った場合に成立する。

 では、Bが捜査官に対して虚偽の供述をして、虚偽内容の供述調書を作成させた場合、捜査官はBが記憶どおり述べていると認識しているので、悪意はない。Bは悪意のない捜査官を間接的に利用して、虚偽内容の供述調書を作成したので、証拠偽造罪に問われるのだろうか。

【裁判所の判断】
 参考人が捜査官に対して虚偽の供述をすることは、それが犯人隠匿罪に当たり得ることは別として、証拠偽造罪には当たらない。……

 参考人が捜査官に対して虚偽の供述をしたにとどまらず、その虚偽供述が録取されて供述調書が作成されるに至った場合、……形式的には、捜査官を利用して同人をして供述調書という証憑を偽造させたものと解することができる。……しかし、この供述調書は、参考人の捜査官に対する供述を録取したにすぎないものであるから、参考人が捜査官に対して虚偽の供述をすることそれ自体は、証憑偽造罪に当たらないと同様に、供述調書が作成されるに至った場合であっても、や はり、それが証憑偽造罪を構成することはあり得ない。

【解説】
 被疑者Aが覚せい剤の使用で勾留されているときに、参考人である被告人が、Aはそれが風邪薬である認識していたと、捜査官に虚偽の供述を行えば、その虚偽の供述が書面に記載され、供述書としてまとめられる。参考人の供述調書は、Aに有利な証拠となり、Aは不起訴または起訴猶予処分とされるならば、それは犯人を隠避したことになる。

 被告人は、捜査官に対して虚偽の供述をすることによって、それを信じた警察官は虚偽の供述調書を作成した。供述調書を作成するのは、あくまでも参考人の供述を録取した捜査官であって、参考人ではない。したがって、参考人が捜査官に対して虚偽の供述をしようとも、(犯人隠避とは別に)証拠偽造は成立しない。

偽証の意義(大判大正3・4・29刑録20輯654頁)

【事実の概要】
 被告人Xは、Aほか数名連署の借用証書の金20円という記載を30円と改ざんし、実際に貸した金額は20円であったにもかかわらず、30円を貸したことにして、債務者から30円の返済を受けた。被告人Xは、文書偽造、同行使および詐欺で起訴された。

 第1審で、Xは、C・Dを通じてBを教唆して、次のように証言させた。Bは、借用証書を作成した当時、授受した金額が30円であることは記憶している(が、他にE名義の10円の借用証書をXに渡したかどうかは記憶していない)と証言した。

 原審では、文書偽造、同行使および詐欺の公訴事実については証拠不十分で無罪としたが、被告人XがBに偽証を教唆したとする公訴事実については有罪とした。つまり、借用証書の金額欄が「30円」ではなく、「20円」であったにもかかわらず、それを「30円」と書き換えた事実がみとめられれば、(私)文書偽造(変造)罪、同行使罪が成立し、それによって債務者を欺いて10円多く返済させたならば詐欺罪が成立する。しかし、借用証書の金額欄が「30円」ではなく、「20円」であったことを裏付ける証拠が不十分であったため、私文書偽造罪、同行使罪、詐欺罪については無罪になったのである。それにもかかわらず、被告人XがBに授受された金額が「30円」であった と記憶していると証言させた点については偽証罪が成立すると判断された。つまり、Bは、授受された金銭の額が20円であったと記憶していたにもかかわらず、記憶に反して30円であると証言したので、偽証罪が成立し、同じように20円と記憶していたXがそれを教唆したので、偽証罪の教唆が成立するとされたのである。、

 これに対し、弁護人は、両公訴事実は互いに密接な関係を有しており、前者の公訴事実が認められないならば、後者の偽証教唆も当然否定されるべきである と主張した。つまり、借用証書の金額欄が「30円」ではなく、「20円」であったことを裏付ける証拠が不十分であった以上、「30円」が授受されていた可能性があるので、被告人XがBに授受されたのが「30円」であると証言させたのは、確かに記憶に反する証言をさせたのであるが、それが客観的に見て虚偽の事実を証言させたとはいえないと主張した。

【争点】
 偽証罪とは、法廷において宣誓した証人が虚偽の陳述・証言をすることである。虚偽の陳述とは何か。証人が記憶に反した証言をすることか(主観説)。それとも、客観的に見て真実に反する証言をしたことか(客観説)。

 主観説によれば、証言した内容が客観的な事実と一致していても、故意に記憶に反して証言をした以上、偽証罪が成立する。これに対して、客観説によれば、記憶に反した証言が偶然、客観的な事実と一致している以上、偽証罪には問われない。また、記憶どおりに行った証言が客観的な事実と一致しなくても、故意がないので処罰されない。

【裁判所の判断】
 証言の内容である事実が、真実に一致する場合、もしくは少なくともその証言が虚偽であると認められない場合であっても、いやしくも証人がその記憶に反して陳述をするというのは、偽証罪を構成することはもちろんである。偽証罪は、証言が真実に一致しないことを要件とするものではないからである。

【解説】
 偽証とは、記憶に反した証言を故意に行なうことである(主観説)。たとえ真実に合致していても、記憶に反した故意の証言は偽証として処罰される。これに対して、記憶に反した証言を故意に行なっても、それが真実に合致していれば偽証にあたらないと解する立場もある(客観説)。従って、記憶通りに証言したが、それが真実に合致していない場合、客観的には偽証であ るが、故意が否定され、無罪となる。

共犯者による犯人蔵匿罪の成否(旭川地判昭和57・9・29刑月14巻9号713頁)

【事実の概要】
 Xら7名は共謀してAを拉致し、Yが運転する自動車のトランクに監禁して同乗した。その後、被告人は、Zから報告を受け、Aを監禁し続けることを共謀し、Aを監禁し、窒息死させた。

 被告人は、Zと共謀し、Zを警察署に自首させ、Zが単独でAを殺害した旨の虚偽の事実を述べさせた。

 被告人は、それによって、Xら7名およびYの逃走を容易にさせ、この8名の発見、逮捕を免れさせるために、旭川市内および北見市内に潜伏させ、その後、Yを除くXら7名を高跳びさせて、川崎市内に潜伏させ、犯人を隠避させるとともに、蔵匿した。

【争点】
 証拠隠滅罪は、他人の刑事事件の証拠を隠滅する行為である。自分の刑事事件の証拠を隠滅しても、(適法行為に出ることがもはや期待できないので)証拠隠滅罪にはあたらない。

 犯人隠避罪・蔵匿罪は、罰金刑以上の罪を犯した者の逃走を容易にしたり、隠れる場所を提供する行為である。自分自身が罰金刑以上の罪を犯した者である場合、逃走したり隠れても、犯人隠避・蔵匿にはあたらない。

 共犯関係にある他の共犯者を隠避・蔵匿する行為は、どのように評価されるべきか。

【裁判所の判断】
 刑法103条、104条の保護法益をみるに、これは、抽象的には、 いずれも国家の刑事司法作用であるが、同法104条の証憑湮滅罪は他人の刑事被告事件に関する証憑の完全な利用を妨げる罪であるのに対し、同法103条の犯人蔵匿、隠避罪は犯人を庇護して当該犯人に対する刑事事件の捜査、審判及び刑の執行を直接阻害する罪であって、このような保護法益の具体的な態様の相違に着目すると、本件のように、共犯者に対する犯人蔵匿、隠避が、行為者である被告人自身の刑事被告事件に関する証憑湮滅としての側面をも併用しているからといって、そのことからただちにこれを不可罰とすることはできないものと解すべきである。けだし、かように被告人自身の刑事被告事件の証拠方法となるのみならず、終局的には共犯者である犯人自身の刑事被告事件における刑執行の 客体ともなる者自体を蔵匿し、隠避せしめて、当該犯人に対する捜査、審判及び刑の執行を直接阻害する行為は、もはや防禦として放任される範囲を逸脱するものというべきであって、自己の刑事被告事件の証憑湮滅としての側面をも併用することが、一般的に期待可能性を失わせる事由とはなりえない。

【解説】
 証拠隠滅罪は他人の刑事事件の証拠を隠滅し、その利用を妨げる行為であり、犯人隠避罪・蔵匿罪が犯人を隠避させ、それをかくまい、捜査、審判および刑の執行を阻害する行為である。行為態様と保護法益は異なる。ある犯人が自己の刑事事件に関する証拠にあたる場合、その犯人を隠避させる行為は一方で犯罪にあたるが、他方で自己の刑事事件の証拠を隠滅でもあり犯罪ではないので、犯人隠避 としても処罰されないのではないかという意見があるが、保護法益が異なるので、証拠隠滅にあたらなくても、犯人隠避にはあたると解される。

身代わり犯人と犯人隠避罪の成否(最決平元・5・11刑集43巻5号405頁)

【事実の概要】
 被告人は、Aが殺人未遂の被疑事実により逮捕されたことを知り、Aが殺人未遂罪でによって訴追され、処罰されるのを免れさせる目的で、Bに対してAの身代わり犯人になるよう教唆して、Bに殺人未遂事件の犯人である旨の虚偽の事実を申し立てさせた。ただし、Aが逮捕され、身柄を拘束された状態は続き、それを変化させることはなかった。

 第1審は、犯人隠避罪および犯人蔵匿罪の教唆の成立を否定した。犯人蔵匿罪とは、官憲による身柄の確保に向けられた刑事司法作用を保護し、円滑に執行させる趣旨で設けられた犯罪規定であり、それは犯人をかくまうことによって、官憲による発見・逮捕を免れさせる行為である。また、犯人隠避罪とは、蔵匿以外の方法によって、官憲による発見・逮捕を免れさせる行為である。Aはすでに逮捕されており、官憲による発見・逮捕を免れさせる行為が成り立つことはあり得ない。従って、犯人蔵匿・隠避が成立しない以上、その教唆も成立しない。

 原審は、被告人の行為は犯人隠避の教唆にあたるとし、第1審判決を破棄した。被告人が身代わり犯人としてBを自首させたことによって、捜査官は時間と人員の浪費を余儀なくされ、殺人未遂の犯人がAであるのか否かを不安に感じ、動揺をきたし、犯人の特定に関する捜査が少なからず混乱・妨害されたことは明らかである。このような身代わり犯人の自首は、犯人の発見・逮捕を困難にし、捜査権の作用を妨害するおそれがあり、それは犯人隠避罪を構成する。たとえAが釈放されなくても、犯人隠避の罪責を免れることはない。つまり、犯人隠避罪は犯人逮捕のための捜査を妨害する行為であり、そのような妨害を行っている以上、Aが釈放されていなくても、犯人隠避罪の成立は否定されない。

 これに対して被告人が上告した。

【争点】
 ある行為が犯罪構成要件に該当しているか否かを判断するためには、その行為が、条文を解釈して導き出される犯罪の基本型(犯罪のカタログ・サンプルのようなもの)に当てはまっているかどうかを検討することが必要である。犯人隠避罪の条文にある「隠避させる」という文言を解釈すると、どのような犯罪の基本型が導き出されるかというと、それは「逃がす」という行為類型が導き出される。ある行為がその類型に該当していれば、犯人隠避罪の構成要件該当性が認められる。

 このような法解釈の方法は、文理的解釈方法と呼ばれる。条文の文言の文理(条文の日本語の意味)を明らかにして、それに基づいて法適用をしていく方法である。このような方法は、ともすれば条文の文言の意味に目を奪われて、それを適用することが、あるいは適用しないことが果たして妥当なのか、法の目的の実現に貢献しているのか、法益の保護に役立っているのかという問題をあいまいにしてしまうおそれがある。

 そこで、立方の趣旨や目的、さらにはその妥当性をも視野に入れた法解釈の方法が必要になってくる。それが目的論的解釈方法である。この方法は、一方で条文の文言の文理を基礎にすえながら、法の目的・法益保護に資するよう、その文理を機能的に解釈し、価値判断を加えることによって、(法を制定した当時の社会ではなく)現代の社会の要請に応えようとする。

 そのような議論を踏まえると、「隠避」とはどのように解釈されるべきか。

【裁判所の判断】
 刑法103条は、捜査、審判および刑の執行等広義における刑事司法の作用を妨害する者を処罰しようとする旨の規定であって、同条にいう「罪ヲ犯シタル者」には、犯人として逮捕勾留されている者も含まれ、かかる者をして現になされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為も同条にいう「隠避」に当たると解すべきである。そうすると、犯人が殺人未遂事件で逮捕勾留された後、被告人が他の者を教唆して右事件の身代わり犯人として警察署に出頭させ、自己が犯人である旨の虚偽の陳述をさせた行為を犯人隠避教唆罪に当たるとした原判断は、正当である。

【解説】
 犯人を逃げさせ、刑事司法の作用(捜査、審判、刑の執行)を妨害する行為が犯人隠避罪である。殺人未遂の嫌疑で逮捕・勾留されている者を釈放させれば、捜査、審判および刑の執行が妨害されるので、犯人隠避にあたる。
 では、勾留中の真犯人の身代わりとして出頭したが、真犯人の勾留は解かれなかった場合でも隠避にあたるか。本決定は、そのような場合(は、隠避の未遂で不可罰であると思うが)、隠避にあたると判断した。それは身代わり出頭が「隠避」に該当していなくても、保護法益である刑事司法作用を妨害しているので、「隠避」に該当すると解すべきであるという法的価値判断によって正当化される。

犯人の死亡と犯人隠避罪の成否(札幌高判平成17・8・18高刑集58巻3号40頁)

【事実の概要】
 被告人は、飲酒帰りのA、B、C、Xから自動車運転を頼まれ、4名を乗せて出発したが、その途中、Xが被告人と運転を交替して自動車を運転した。しかし、ハンドル操作を誤るなどして車ごと川に転落した。被告人、A、Bは自力で脱出したが、C、Xは死亡した。その後、被告人は警察に出頭し、警察官に対し、自動車を運転して自動車を川に転落させたのは自分であると虚偽の事実を述べた。その時点では、Xはすでに死亡していた。

 原審は、被告人の行為は犯人隠避罪にあたると認定した。真犯人が死亡していても、被告人は警察官が真犯人を発見し、事件を解明する捜査を妨害したからである。

 これに対して、被告人はXがすでに死亡している以上、Xは刑法103条にいう「罪を犯した者」にはあたらないと主張して控訴した。

【争点】
 「罪を犯した者」の「者」とは、「人」のことである。「人」とは自然人であり、誕生から死亡までの間の人間を指す。従って、誕生前の胎児は「人」ではなく、また死亡後の死者もまた「人」ではない。これが「罪を犯した者」の「者」の文理的意味である。

 この文理的な解釈に基づけば、Xはすでに死亡しているので、「罪を犯した者」には当たらない。被告人が警察に出頭して、虚偽の事実を述べたために、交通事故の事件の捜査が妨害されようとも、犯人隠避にはあたらない。

 しかし、目的論的解釈方法に基づいて考えると、また別の解釈が成り立つのではないか。

【裁判所の判断】
 同条の犯罪が成立するかどうかは、同条にいう「罪を犯した者」に死者が含むかどうかによることとなる。ところで、同条は、捜査、審判及び刑の執行等、広義における刑事司法の作用を妨害する者を処罰しようとする趣旨の規定である。そして、捜査機関に対して自ら犯人である旨虚偽の事実を申告した場合には、それが犯人の発見を妨げる行為として捜査という刑事司法作用を妨害し、同条にいう「隠避」にあたることは明らかであり、そうとすれば、犯人が死者であってもこの点に変わりはないと解される。

【解説】
 真犯人を特定することは、刑事司法の重要な課題である。真犯人が死亡したからといって、それを明らかにすることも刑事司法の課題である。真犯人の代わりに虚偽の事実を申告する行為は、犯人を隠避させ、真相の解明を妨げる行為である。

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