刑事判例資料集を解説付きで紹介「人格の同一性 わいせつとは 資格の冒用 有価証券偽造etc.」

顔写真の使用と人格の同一性(最決平成11・12・20刑集53巻9号1495頁)

【事実の概要】
 別件で指名手配を受けて逃走中であった被告人は、「A」の偽名を用いて就職しようと考え、虚偽の氏名、生年月日、住所、経歴等を記載し、被告人の顔写真を張り付けた押印のある「A」名義の履歴書および虚偽の氏名等を記載した押印のある「A」名義の雇用契約書等を作成して提出行使した。

【争点】

 私文書の偽造が処罰されるのは、その偽造が有形偽造の場合に限られる。すなわち、作成権限を持たない者が私文書を作成し、文書の名義人と文書の作成者との間の人格的な同一性を偽ることである。文書の作成権限を有する者が自分の文書を作成したが、その内容に偽りがある場合の「無形偽造」については、基本的に不処罰である。ただし、医師(民間の医師)が公務所に提出する診断書(私文書)に虚偽内容を記載した場合には、例外的に虚偽診断書作成罪(私文書の無形偽造)として処罰される。

 では、偽名を用いて、自分の顔写真を使用した場合の文書作成が有形偽造にあたるのか、それとも無形偽造にあたるのか。

【裁判所の判断】
 私文書偽造罪の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にあると解されるところ……これらの文書の性質、機能等に照らすと、たとえ被告人の顔写真がはり付けられ、あるいは被告人が右各文書から生ずる責任を免れよう とする意思を有していなかったとしても、これらの文書に表示された名義人は、被告人とは別人格の者であることが明らかであるから、名義人と作成者との人格の同一性にそごを生じさせたものというべきである。したがって、被告人の各行為について有印私文書偽造、同行使罪が成立するとした原判断は、正当である。

【解説】
 被告人は「A」でないにもかかわらず、「A名義の文書」を作成した。それは「有形偽造」である。その文書はあたかも「A」が作成したかのような印象を受けるが、その文書を作成しらのは被告人であるので、文書の名義人と文書の作成者の間の人格的な同一性を偽ったことになる。そのようなA名義の文書が社会に出回っていると、一般の人々は「このA名義の私文書には他人が作成したものが含まれている可能性があるので、信用できない」と感じるようになり、A名義の私文書の社会的信用性がなくなってしまう。そうすると、個人の私文書を相互に交わすことによって成り立っている社会が揺らいでしまう。したがって、私文書の有形偽造を厳しく規制する必要がある。

 しかし、文書の氏名欄に「A」の氏名が書かれ、顔写真の箇所に「被告人」の顔写真がはられている場合、その文書の名義は「A」か、それとも「被告人」か。氏名の欄には「A」の名前が書かれているだけで、顔写真が「被告人」であるならば、この文書を作成したのは「被告人」であり、その名義も「被告人」であると理解することもできそうに思われる。そうすると、作成権限のある被告人が自分の文書を作成し、偽名を用いているだけであると理解することもできる。それは無形偽造であって、有形偽造ではない。

 本件では、履歴書という文書の性質、機能等に照らして、文書の名義人は氏名欄に書かれた人物「A」であるということを前提にして、それが実在する人物でなくても、私文書偽造罪、同行使罪の成立を肯定した。

資格の冒用(最決平成15・10・6刑集57巻9号987頁)

【事実の概要】
 被告人は、実弟らと共謀の上、顧客に交付する目的で、ジュネーブ条約に基づく正規の国際運転免許証に酷似した文書を作成した。作成された文書の表紙しは、英語で「国際旅行連盟」と刻された印章様のものが印字されており、国際旅行連盟なる団体がその発給者として表示されていると認められるものであった。

 被告人は、国際旅行連盟はメキシコ合衆国に実在する民間団体であり、被告人は同連盟から本件文書の作成を委託されていたと弁解した。同連盟が存在しないことは、証拠によって明らかにできなかったが、かりに実在するとしても、同連盟がジュネーブ条約に基づいて国際運転免許証の発給の権限を与えられていたという事実はなく、被告人もこのことを認識していた。しかし、被告人は同連盟から同連盟の名義の文書を作成する権限が与えられていたので、私文書偽造罪(有形偽造)は成立しないと主張した。

 第1審は、文書の名義人を決定するにあたっては、文書に記載されている団体の名称や個人の名前などのほか、文書の形状や記載内容、さらには文書からうかがわれる使用目的なども考慮したうえで、その文書から認識される人格主体は誰であるのかを判断するのが相当であるとの立場を示した。そのうえで、本件文書の名義人は、ジュネーブ条約に基づいて国際運転免許証を発給する権限を有する団体としてのITA(国際旅行連盟)と解されると判示し、被告人に有印私文書偽造罪の成立を認めた。

 控訴審もまた同じ立場から第1審の判断を維持した。

【争点】
 様々な名称の団体がある。他にはなく、特定できる団体もあれば、名称が類似した団体もあり、なかには同じ名称の団体もある。かつての「維新の党」は、その後、「日本維新の会」となって現在に至っている。それとは別に「日本維新党」などの団体も存在する。それぞれが別個の団体であるので、それぞれが自分の団体の文書を発行できる。それは偽造にはあたらない。

 本件では、「国際旅行連盟」という団体が発行した国際運転免許証が私文書偽造にあたるかが問われた。この「国際旅行連盟」という団体は、メキシコに実在するという。それが証拠によって否定されたならば、そのような実在しない団体の文書を作成する権限を持つ者は存在しないのであって、その名義で文書を作成することは有形偽造にあたる。

 しかし、メキシコにそのような「国際旅行連盟」という団体が実在することは証拠によって否定できなかった。つまり、「国際旅行連盟」という団体はメキシコに存在する。その団体がその名義で文書を作成しても問題はない。しかし、それはジュネーブ条約に基づいて国際運転免許証の発行の権限が与えられている「国際旅行連盟」とは異なる団体であり、名称が同じだけである。では、ジュネーブ条約とは無関係な「国際旅行連盟」が、その名義で国際運転免許証のような文書を作成すると、作成権限のない文書の作成(有形偽造)として、私文書偽造にあたるのか。それとも作成権限のある文書の作成であって、内容虚偽の文書を作成しただけなのか(無形偽造)。

【裁判所の判断】
 私文書偽造の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にあると解される。本件についてこれをみると、……本件文書の記載内容、性質などに照らすと、ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体により作成されているということが、正に本件文書の社会的信用性を基礎づけるものといえるから、本件文書の名義人は、「ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体である国際旅行連盟」であると解すべきである。そうすると、国際旅行連盟が同条約に基づきその締約国等から国際運転免許証の発給権限を与えられた事実はないのであるから、所論のように、国際旅行連盟が実在の団体であり、被告人に本件文書の作 成を委託 していたとの前提に立ったとしても、被告人が国際旅行連盟の名称を用いて本件文書を作成する行為は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽るものといわなければならない。

【解説】
 「国際旅行連盟」という団体は、ジュネーブ条約に基づいて国際運転免許証を発行する権限が与えられている。したがって、国際運転免許証の発行ができるのは「国際旅行連盟」という団体だけである。それと同じ名称の団体を設立することは自由であるが、それを設立しても国際運転免許証の発行権限は与えられない。したがって、ジュネーブ条約と関係のない「国際旅行連盟」が「国際運転免許証」のような文書を作成した場合、それは作成権限のない者が名義を偽ったことになるので、私文書偽造罪にあたる。 

名義人の承諾と私文書偽造罪の 成否(最決昭和56・4・8刑集35巻3号57頁)

【事実の概要】
 被告人甲は、酒気帯び運転等により運転免許停止処分を受けた。このことを会社を共同経営していた乙に打ち明けたところ、乙は「免許がなかったら困るだろう。俺が免許証を持っているから、俺の名前を言ったら」と、自分の運転免許証を見せ、メモ紙に自分の本籍、住居、氏名、生年月日を書いて、甲に交付した。

 その後、甲は無免許運転をし、その際に取締りの警察官から運転免許証の提示を求められたところ、「運転免許証は家に忘れてきました」と言って、乙の氏名等を称し、警察官が作成する道路交通法違反(免許不携帯)の交通事件原票中の供述書欄(「私が上記違反をしたことは相違ありません」などの事実証明に関する私文書)の末尾に「乙」と署名し、これを警察官に提出した。

 原審は、乙が甲に対して、供述書欄に乙の氏名で署名することを事前に承諾していたと認定したうえで、甲に私文書偽造罪および同行使罪の成立を認めた。これに対して被告人が上告した。

【争点】
本人が文書に署名せず、それを他人が代筆することが認められるものがある。パスポートの申請にあたって、まだ子どもが小さく、署名できない場合には、親権者がそれに代わって証明することが認められている。ただし、そのように代理署名が認められている文書があることによって、すべての文書につき代理署名が認められることにはならない。

 道路交通法違反に伴って作成される交通事故原票は、その文書の性質上、違反行為を行った者が署名することになっているので、その者の氏名を書くことが求められている。そこに他人の氏名を書いた場合、どうなるか。

【裁判所の判断】
 交通事件原票中の供述書は、その文書の性質上、作成名義人以外の者がこれを作成することは法令上許されないものであって、右供述書を他人の名義で作成した場合は、あらかじめその他人の承諾を得ていたとしても、私文書偽造罪が成立すると解すべきであるから、これを同趣旨の原審の判断は相当である。

【解説】
 私文書偽造罪の保護法益は、名義人の文書作成権限ではなく、文書の社会的信用性である。作成権限を持たない者(A)が、他人(B)名義の文書を作成した場合、その文書はBによって作成された文書であると、一般の社会は受け止める。Bが「そんな文書を作成した覚えはない」と主張しても、「そんなことないだろう」と疑われる。「いや、本当に書いていないんだ。信じてくれ」と強く訴えれば、「そうすると、Bの名乗って、文書を作成している人物がいることになる。文書を作成している人物が、文書の名義を偽っていることになる」と、理解してくれる。

 このように作成権限のない者が他人名義の文書を作成した場合、文書の名義人と文書の作成者の人格的同一性に齟齬(そご・不一致)が生じ、その名義の文書の社会的信用性が低下する。刑法は、このような行為を私文書偽造罪として厳しく規制している。

 ただし、文書の種類や内容によっては、他人が名義人の名を署名して、文書を作成することが許される場合もある。しかし、本件のような交通事件原票は、交通違反をした者がその名義において作成する文書なので、他人の名前を署名すると名義を偽っていることになる。たとえ、その名義人の許可を得ていても、文書の性質上、それは許されない。

権限の内部的 制限と有価証券偽造罪(最決昭和43・6・25刑集22巻6号490頁)

【事実の概要】
 被告人・甲は、K県の鰹鮪(カツオマグロ)漁業協同組合の惨事として約束手形の発行事務を担当していたが、同組合長A振出名義の約束手形を発行するにあたっては、少なくとも同組合専務理事Bの決済が必要とされていたにもかかわらず、同組合の初期乙らと共謀のうえ、AまたはBの決済、承認を受けずに、組合長振出名義の約束手形数十通を作成し、交付した。

 第1審は、本件の手形作成について有価証券偽造罪の成立を認めた。控訴審も同様であった。現代の社会は、一般に文書を作成し、それによって自己や他者の意思を客観化して、確認することによって成り立っている。そこには、文書や有価証券は、作成権限のある者によって作成されたものであるという前提がある。もしも作成権限のない者が勝手に文書や有価証券を作成しているとすると、その文書や有価証券の社会的信用性は低下してしまう。刑法は、このようなことがないように、作成権限のない者による文書や有価証券の作成を禁止し、その社会的信用性を保護・維持しているのである。

 文書や有価証券の偽造にあたるかどうかは、作成権限の有無にかかっている。作成権限のある者が作成したのであれば、名義人と作成者との間に人格的な不一致はない。しかし、作成権限のない者が作成したのであれば、名義人と作成者とは人格的に一致しない。

 本件において、被告人甲に、約束手形を作成する権限はなかった。その甲が、組合長振出名義の約束手形を作成し、交付した。

【争点】
 被告人に約束手形を作成する権限はあったのか。

【裁判所の判断】
 被告人は、K県鰹鮪漁業組合の惨事であったが、当時同組合内部の定めとしては、同組合員または准組合員のために融通手形として振り出す組合長振出名義の約束手形の作成権限は、すべて専務理事Bに属するものとされ、被告人は単なる起案者、補佐役として右手形作成に関与していたにす ぎないものであることが、明らかである。もっとも、同人は、水産業協同組合法46条3項により準用されている商法38条1項の支配人としての地位にあった者であるけれども、右のような本件の事実関係のもとにおいては、単に同人の手形作成権限の行使方法について内部的制約があったというにとどまるものではなく、実質的には同人に右手形の作成権限そのものがなかったとみるべきであるから、同人が組合長または専務理事の決済・承諾を受けることなく准組合員のため融通手形として組合長振出名義の約束手形を作成した本件行為が有価証券偽造罪にあたるとした原審の判断は、その結論において相当である。

【解説】
 被告人・甲の弁護人は、甲が作成した約束手形は有効であるので、それは偽造にはあたらないと主張したが、そのことによって甲の行為が偽造に当たらないとすることはできない。

行使の意義(最判昭和44・6・18刑集23巻7号950頁)

【事実の概要】
 被告人は、 昭和40年1月27日、第1種原動機付自転車の運転免許の交付を受けた。これを他の運転免許証に作り変えようと思い、行使の目的をもって、翌日に、第1種免許の蘭に「大型自動車運転免許」などと記載した。被告人は、昭和42年10月22日に、この偽造免許証を携帯して、19回にわたって営業用普通自動車(タクシー)を運転した。

 第1審は、公文書偽造罪、偽造公文書行使罪の成立を認め、両者を牽連犯とした。

 これに対して、検察官は、公文書偽造と偽造公文書行使の間に、他の犯罪について確定した判決が介在しているので、公文書偽造罪と偽造公文書行使罪は牽連犯ではなく、併合罪であると主張して控訴した。控訴審は、検察官の主張を斥け、控訴を棄却した。

 これに対して、検察官は、刑法54条後段の牽連犯の意味、刑法45条の解釈適用について判例違反であると主張して、上告した。

【争点】
 偽造公文書の行為とは、どのような意味か。自動車を運転するときには、免許証を携帯することが義務付けられる。この運転免許証が偽造免許である場合、運転の際にそれを携帯していたことが行使にあたるのか。それとも、警察官に提示するなどしたことで、偽造運転免許の行使になるのか。

【裁判所の判断】
 偽造公文書行使罪は公文書の真正に対する公共の信用が具体的に侵害されることを防止しようとするものであるから、同罪にいう行使にあたるといえるためには、文書を真正に成立したものとして他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させまたはこれを認識しうる状態におくことを要するのである。したがって、たとえ自動車を運転する際に運転免許証を携帯し、一定の場合にこれを提示すべき義 うが法令上定められているとしても、自動車を運転する際に偽造にかかる運転免許証を携帯しているにとどまる場合には、未だこれを他人の閲覧に供しその内容を認識しうる状態においたものというには足りず、偽造公文書行使罪にあたらないと解すべきである。

【解説】
 この事案には、二つの理論問題がある。一つは罪数論、もう一つは偽造公文書の行使の意義である。検察官は、前者の問題に関して、判例違反を主張して上告した。これに対して、最高裁は、刑法54条後段の牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪のうちに、確定裁判が介在しても、手段の犯罪と結果の犯罪は牽連犯の関係にると解するのが相当であると判断した。一般に牽連犯を構成する2つの罪については、そのうちの重い刑の罪の法定刑を適用して処断される。本件では、公文書偽造罪と偽造公文書行使罪とは同じ法定刑なので、処断刑については、どちらでもよい。

 しかし、検察官の主張するように、手段行為と結果行為の間に確定裁判が介在している場合には、両罪の関係は併合罪になるかどうかは考えるべき問題である。

 第2の論点である行使の意義としては、偽造運転免許を携帯しているだけでは行使にはあたらないというのが一般の解釈である。そうであるならば、行使の未遂にあたるのかという問題が議論されているが、行使の未遂は、警察官から提示を求められて、取り出そうとした段階で成立するので、たんに携帯しているだけでは行使の着手にもあたらない。

わいせつの意義(最判昭和55・11・28刑集34巻6号433頁)

【事実の概要】
 被告人らは、その全体の約3分の2が男女の性交場面の描写で占められている『四畳半襖の下張』を販売(有償頒布)した。

【争点】
 わいせつ文書販売罪(有償頒布罪)における「わいせつ」の意義については、長く論じられてきた。文学や芸術の世界において、人間のありのままの姿を描こうとすれば、性の問題は避けて通ることはできない。そこに深く入れば、目を覆いたくなるような赤裸々な姿を描写することもある。それは芸術であり、またわいせつな描写でもある。わいせつな描写であれば、その文学作品や芸術創作品は、わいせつ物として規制されることになる。しかし、何がわいせつであるのかは、簡単に決められることではない。

【裁判所の判断】
 文書のわいせつ性の判断にあたっては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写記述の程度とその手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性・ 思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的趣味にうったえるものと認められるか否かなどの諸点を検討することが必要であり、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして、それそれが「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」……といえるか否かを決すべきである。本件についてこれをみると、本件『四畳半襖の下張』は、男女の性的交渉の情景を扇情的な筆致で露骨、詳細かつ具体的に描写した部分が量的質的に文書の中枢を占めており、その構成や展開、さらには文芸的、思想的価値などを考慮に容れても、主として読者の好色にうったえるもの と認められるから、以上の諸点を総合検討したうえ、本件文書が刑法175条にいう「わいせつ文書」にあたると認めた原判断は、正当である。

【解説】
 刑法における「わいせつ性」の概念は、一般に、徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものと定義されている。そのような内容の文書であるかどうかを判断するにあたって、本件では重要な判断基準が提示された。

わいせつ物の「公然陳列」の意義(最決平成13・7・16刑集55巻5号317頁)

【事実の概要】

 被告人は、自ら開設・運営していたパソコンのホストコンピュータのハードディスクに、わいせつな画像データを記憶・蔵置させ、それにより、不特定多数の会員が、自己のコンピュータを操作して、電話回線を通じて、ホストコンピュータのハードディスクにアクセスして、そのわいせつな画像データをダウンロードし、画像表示ソフトを使用して、パソコン画面にわいせつな画像として顕現させ、これを閲覧することができる状態を設定した。

【争点】

 わいせつ物公然陳列罪の成立には、わいせつ物を「公然と陳列した」ことが要件として必要である。それは、不特定または多数人がそれを認識しうる状態に置くことをいう。かつては、わいせつ商品を展示し、または映画を上映した事案で、その場所に不特定または多数人が出入りできる状態にあったか否かを判断することで対応できたが、コンピュータ機器が発達する時代になって、誰でもコンピュータのネットワークシステムにアクセスして、遠く離れたところからでも、わいせつな画像が閲覧したり、データをダウンロードできるようになった。このような時代において、「公然と陳列した」という要件をどのように理解すべきか。

【裁判所の判断】

 わいせ つ物を「公然と陳列した」とは、その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される。被告人が開設し、運営していたパソコンネットにおいて、そのホストコンピュータのハードディスクに記憶、蔵置させたわいせつな画像データを再生して現実に閲覧するためには、会員が、自己のパソコン使用して、ホストコンピュータのハードディスクから画像をダウンロードした上、画像表示ソフトを使用して、画像を再生閲覧する操作が必要であるが、そのような操作は、ホストコンピュータのハードディスクに記憶、蔵置された画像データを再生閲覧するた めに通常必要とされる簡単な操作にすぎず、会員は、比較的容易にわいせつな画像を再生閲覧することが可能であった。そうすると、被告人の行為は、ホストコンピュータのハードディスクに記憶、蔵置された画像データを不特定多数の者が認識できる状態に置いたものというべきであり、わいせつ物を「公然と陳列した」ことに当たると解されるから、これと同旨の原判決の判断は是認することができる。

【解説】

 被告人は、ホストコンピュータのハードディスクにわいせつな画像のデータを記憶・蔵置させた。そのホストコンピュータには、不特定または多数の人がアクセスすることができ、その画像データの再生・閲覧は、簡単な操作で行えた。そうすると、画像のデータ再生・閲覧に特段の作業が必要でないことからすれば、被告人がホストコンピュータにわいせつ画像のデータを記憶・蔵置すれば、あとは容易にアクセスして再生・閲覧できるのであるから、データを記憶・蔵置したことをもって、公然と陳列したと認定することができる。

 アクセスしない段階においては、わいせつ画像のデータは、非可視的な電子情報でしかないが、アクセスが容易であり、そのデータをダウンロードすること特段の操作を要しないことから、ホストコンピュータにデータを記憶・蔵置した時点で、「わいせつ画像」を公然と陳列したといえる。

販売の目的の意義(最決平成18・5・16刑集60巻5号413頁)

【事実の概要】

 被告人Xは、自らデジタルカメラで撮影した児童の姿態に係る画像データをパソコン上のハードディスク(HD)に記憶、蔵置させた。そして、そこに保存された画像データを光磁気ディスク(MO)に記憶、蔵置させ、これを所持して いた。当該画像データが記憶、蔵置されたMOは、(旧)児童ポルノ禁止法2条3項の児童ポルノであり、刑法175条のわいせつ物に該当するものであった。

 Xは、本件MOを製造し、所持していたが、Xは、HDに保存された画像の児童の目の部分にぼかしを入れ、サイズを縮小するなど加工したうえで、そのデータをハードディスクに記憶、蔵置させ、そのデータをコンパクトディスク(CD-R)に記憶させて、それを販売する目的であった。つまり、販売目的で所持していたのは、HDに保存された画像であった。では、本件MOは何の目的で所持していたかというと、HDのデータが何らかの事情で破壊され、CD-Rに記憶させることができなくなる事態に備えて、ぼかしを入れる前のデータをバックアップとして保存しておくためであった。

 第1審は、わいせつ物の販売所持罪の成立を認めた。控訴審もまた、わいせつ物販目的所持罪の成立を認めた。本件において、実際には、元のファイルをそのまま複写するのではなく、目をぼかす、サイズを縮小するなどの加工を経た画像ファイルを記録した媒体を販売しているのであり、MOを所持しているのは販売目的からではないのであるが、MO自体を販売する目的がなくても、販売目的の所持ということができる。

【争点】

 わいせつ物販売目的所持罪における販売の客体と所持の客体は、同一のわいせつ物であることが必要か。オリジナルしかなく、コピーが存在しない場合、オリジナルを販売する目的で所持しているならば、販売の客体と所持の客体は同一ということになる。オリジナルが存在し、それのコピーも存在する場合、販売するのはオリジナルではなく、コピーであるから、販売する目的でコピーを所持していれば、販売の客体と所持の客体が同一であるので、販売目的所持罪が成立する。オリジナルの所持は、販売目的からではないので、それは処罰されない。

 しかし、オリジナルを所持しているのはなぜかというと、コピーを作成するためである。販売するのはコピーであるが、オリジナルはそのコピーを作成するためである。そうすると、オリジナルの所持は、販売するコピーを作成する目的から行われていることになる。このような「コピー作成目的」を「コピー販売目的」に含ませることができるか。

【裁判所の判断】

 このように、Xは、本件光磁気ディスク(MO)自体を販売する目的はなかったけれども、これをハードディスク(HD)の代替物として製造し、所持していたものであり、必要が生じた場合には、本件光磁気ディスク(MO)に保存された画像データを使用し、これをコンパクトディスク(CD-R)に記憶させて販売用 のコンパクトディスクを作成し、これを販売する意思であったものである。その際、画像上の児童の目の部分にぼかしを入れ、ファイルのサイズを縮小する加工を施すものの、その余はそのまま販売用のコンパクトディスクに記憶させる意思であった。そうすると、本件光磁気ディスク(MO)の製造、所持は、法7条2項にいう「前項に掲げる行為の目的」のうちの児童ポルノを販売する目的で行なわれたものであり、その所持は、刑法175条後段にいう「販売の目的」で行なわれたものということができる。上記各目的を是認した原判断は正当である。

【解説】

 本件MOの所持は、販売目的によるものであった。最高裁は、このように認めた。さらに、MOの画像データとHDの画像データは多少違っており、MOの画像データは、児童の目の部分にぼかしを入れるなどの加工が施されることが予定されていたが、そのような事情は、MOの所持が販売目的からのものであることを否定する事情ではないと判断した。画像データのオリジナルとコピーがあり、コピーが壊れたときに、オリジナルを用いて再びコピーを作成することが予定され、それも容易にできることを前提にすると、オリジナルの所持はコピーを作成し販売する目的であったことになろう。

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