公務員に関連した刑法判例集「職権乱用 職務適法性 偽計入札妨害 公務執行妨害 強制執行妨害etc.」

公務員職権濫用罪の成否(最決平成元・3・14刑集43巻3号283頁)

【事実の概要】
 神奈川県警本部警備部公安第1課所属の警察官HとKは、日本共産党の情報を得るために、同党中央委員会国際部長A方の電話を盗聴した。Aは、その行為が公務員職権濫用罪にあたるとして告訴したが、検察官は不起訴処分にした。Aは東京地裁に不審判請求した。

 東京地裁は、以下のように述べて、請求を棄却した。公務員の職務上の行為としてなされた違法、不当な行為のすべてが本罪にいう職権濫用行為となるのではなく、そのうち相手方に対して作為、不作為を強要するに足りる権限に基づくもので、しかも職権行使の外観を備えたもののみが職権濫用行為に該当する。本件盗聴行為は、請求人はもとより何人にも知覚されないように密かに行われたものであるから、職権行使の外観を備えた職権濫用行為とはいうことはできず、公務員職権濫用罪には該当しない。

 東京高裁もまた、同様の理由を示して、請求を棄却した。

【争点】
 公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した場合、公務員職権濫用罪が成立する(刑法193条)。

 公務員には、人に対して義務のない行為を行わせたり、権利の行使を妨害する権限がある。それが適正な手続に基づいて、職務として行われている限り、法令行為として、職権濫用罪の構成要件に該当しない。または、該当しても、その違法性が阻却される。

 では、本罪において濫用される職権とは何か。職務権限のおよぶ行為とは、どのようなものか。本件では、政党幹部の自宅の電話の盗聴行為が問題になったが、電話盗聴は職権に基づいて行なわれる行為か。最高裁は、職権にあたるかどうかについて、二つの要件を判断の基準として設定した。

【裁判所の判断】
 刑法193条の公務員職権濫用罪における「職権」とは、公務員の一般的職務権限のすべてをいうのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担ないし不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限をいい、同罪が成立するには、公務員の不法な行為が右の性質をもつ職務権限を濫用して行われたことを要するというべきである。……これを保険についてみると、被疑者らは盗聴行為の全般を通じて終始何人に対しても警察官による行為ではないことを装う行動をとっていたというのであるから、そこに、警察官に認められている職権の濫用があったとみることはできない。従って、本件行為が公務員職権濫用罪に当たらないとした原判断は、正当である。

【解説】
 公務員職権濫用罪における「職権」は、2つの要件から成り立っている。

 第1は、公務員が一般的に職務として行うすべての職務行為をいうのではなく、そのなかでも相手方に対して、事実上の負担を強いたり、不利益を生じさせたりする特定の職務行為に限られている。

 第2は、その職務行為が公務員によって行われている外観を備えていなければならない。
 本件では、警察官が行った電話盗聴が職権にあたるかどうかが問題になったのであるが、その行為は「警察官による行為ではないことを装う」ことによって行われていたのであるから、それは職権の外観を備えていない。第2の要件を欠いていることを理由に、職権性を否定した。

 ただし、第1の点については、電話盗聴を受ける相手方=被害者が、負担を強いられていること、不利益が生じていることを認識していないので、最高裁が第1の要件も満たしていないと理解しているおそれがある。しかし、「事実上の負担ないし不利益」と書かれていることから推測すると、被害者がそれを認識していなくても、事実上=客観的に負担ないし不利益が生じていれば、職権の第1の要件を満たしていると判断することができると思われる。

職務行為の適法性(最判昭和42・5・24刑集21巻4号505頁)

【事実の概要】
 佐賀県議会において、予算案に反対する議員Xが質疑を行なっていたところ、賛成派の議員からXに対する懲罰動議が出され、それに対抗する形で、反対派の議員からも、賛成派議員への懲罰動議が出された。議会規則77条では、懲罰動議が出された場合、議会に諮らなければならないと定められていたので、Xは動議を先決することが先であると主張して、質疑を中断した。しかし、議長Aは動議を諮ることなく、Xに質疑を継続するよう指示した。Xがこれに応じずにいたところ、賛成派の議員から、質疑打ち切り、討議の省略、全議案一括採択の動議が出された。議長Aは、その動議を議会に諮り、それが賛成多数により可決されたとして宣言し、全議案の一括採択を行なおうとした。これに対してXは、Aが自己に対する懲罰動機と賛成派議員に対する懲罰動機を議会に諮らずに、自分の質疑打切りの動機だけを議会に諮ったのは不当であるとして、多くの反対派議員とともに議長席付近にかけよった。そして、議長マイクのコードを引っ張り、議長席の椅子を揺り動かすなどの行為を行なった。

 検察官は、Xを含む予算案反対派の議員7名を公務執行妨害罪、監禁罪、職務強要罪で起訴した。

 第1審は、公訴事実の一部について犯罪の証明がなされていないと判断したうえで、議長Aが「違法な議事を執行した」と明言しながらも、公務執行妨害罪の成立を認め、監禁罪の成立も肯定した。これに対して、検察官・被告人の双方から控訴がなされた。

 控訴審は、検察官の主張を認め、被告人の主張を斥けた。これに対して被告人が上告した。

【争点】
 公務執行妨害罪は、公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行または脅迫を加える行為である。実際に職務が妨害されることは本罪の成立要件ではない(従って、抽象的危険犯である)。

 公務員が職務を執行するに当たりというのは、職務中である場合はもちろん、職務を始める前であっても、それにあたる。職務の休憩中には職務は行われていないが、休憩は職務の間にとられている場合には、職務再開のための重要な時間であるといえるので、それもまた職務に含まれることになる。

 この職務が適法な職務であることは言うまでもない。法治国家の行政は法治行政であり、全て法に基づいて執行される。それが適法に成立した法に基づいた適法な職務であることは明らかである。

 ただし、そのことから直ちに、個々の職務行為が適法であったか否かは明らかにはならない。個別に判断求められる。本件は、その判断の基準と方法を示したものである。

【裁判所の判断】
 議長のとった本件措置が、本来、議長の抽象的権限の範囲内に属することは明らかであり、かりに当該措置が会議規則に違反するものである等法令上の適法要件を完全に満たしていなかったとしても、原審の認定した具体的な事実関係のもとにおいてとられたと当該措置は、刑法上には少なくとも、本件暴行等による妨害から保護されるに値する職務行為にほかならず、刑法95条1項にいう公務員の職務の執行に当たるとみるのが相当であって、これを妨害する本件所為については、公務執行妨害罪の成立を妨げないと解すべきである。

【解説】
 議会の議長は、先に出された動機を議会に諮らなければならなかった。そうせずに、後に出された質疑打ち切りの動議を先に議会にかけた。これは、議会規則に違反している。

 では、議長の議事運営が議会規則に違反したことを理由に、違法な職務であったと判断することができるか。まずは、その違法は議会規則によって事後に正されなければならない。

 そのうええで、その違法な議事運営をその時点において正すことは許されるか。違法な議事運営である以上、それを正すことはできる。

 また、議長席付近にかけよって、議長マイクのコードを引っ張り、議長席の椅子を揺り動かすなどの行為を行って正すことも許されるか。もし許されるとすると、議事運営が違法であることから、その議事は刑法によって保護されないことになる。しかし、もし違法な議事運営であっても、暴行から保護される余地があるとすると、違法な議事であっても刑法によって保護される。

 議会規則に違反した議事運営は、その規則に基づいて訂正されるべきであり、そのような訂正が予定される限りにおいて、規則違反の議事運営もまた「適法な職務」として扱わなければならず、規則違反の違法性を理由に刑法の保護の対象から除外することはできない。

職務行為の適法性の判断基準(最決昭和41・4・14判時449号64頁)

【事実の概要】
 A・B両巡査は、警邏(けいら)中、日本刀の仕込杖を所持していたXを銃砲刀剣類等所締法違反の罪の現行犯人として逮捕しようとした際、同人が傍らに寄りかかってきたYに何物かを手渡している気配を察知し、B巡査が両者の間に割り込んだところ、Yの胸のあたりから拳銃が落ちてきた。そこで両巡査は、Yをも同法違反罪の現行犯人として逮捕しようとしたことろ、これを免れようとする被告人XおよびYから暴行を受けた。

 原審は、公務執行妨害罪が成立するには公務員の職務行為が適法であることを要するが、職務行為の適否は事後的に純客観的な立場から判断されるべきでなく、行為当時の状況にもとづいて客観的、合理的に判断されるべきであり、たとえYの前示所持が、事後的に裁判所により無罪の判断をうけたとしても、その当時の状況としてはYの右挙動は客観的にみて同法違反罪の現行犯人と認められる十分な理由があるものと認められるから、右両巡査がYを逮捕しようとした職務行為は適法であると解するのが相当であるとして、第1審の結論を指示した。

 弁護人は、両巡査の逮捕行為は違法であり、被告人には正当防衛が成立するはずであるとして上告したが、最高裁は上告を棄却し、原判決の判断を正当とした。

【争点】
 公務執行妨害罪の行為客体である公務員の職務は、適法な職務でなければならない。その職務の適法性の判断基準は何か。とくに判断の時期をどの時点に設定すべきか。

【裁判所の判断】
 弁護人は、Yに対する現行犯逮捕行為は違法であり、違法な職務に対して暴行を加えても、犯罪にはあたらないと主張した。つまり、公務執行妨害罪の構成要件に該当しても、正当防衛として正当化されるので、無罪であると。

 Xは逮捕されそうになったので、Yに拳銃を渡したというのであれば、YはXの協力者の可能性があり、銃の不法所持の現行犯で逮捕することができるが、無関係な者であったならば、Yは銃砲の不法所持の現行犯ではない。現行犯人でない者を現行犯逮捕することはできない。

 もしも、取調べなどの過程において、Yに事情を聴取し、Yが無関係であることが事後的に明らかになったならば、現行犯逮捕は違法であることになる。弁護人の主張の根拠は、このようなものであったのではないかと。

 しかし、職務の適法性・違法性は、事後ではなく、「行為当時の状況」を基準に判断されるべきであるというならば、YがXの傍らに寄りかかってきたという当時の事実を踏まえて判断すると、巡査らがYはXの関係者であり、Yが落とした落とした銃もXから受け取ったものであり、したがってYは銃の不法所持であると認識したことに相当の理由がある。そうすると、巡査らの逮捕はその時点においては、一般人の認識を基準にして考えると、適法であったと判断することができる。

【解説】
 最高裁は、このように職務の適法性の判断時期を行為の時点における一般人の認識を基準にしている。

「職務を執行するに当たり」の意義(最決平成元・3・10刑集43巻3号188頁)

【事実の概要】
 熊本県公害対策特別委員会において、申請参加者が議員の発言に執拗に抗議したため、委員長Aはそれへの回答を委員会で朗読したところ、委員会室内が混乱し騒然となったため、Aは審議を継続できないと判断し、休憩を宣言し退席しようとしたところ、申請参加者XらがAを取り囲み、右腕やわき腹をつかんで引っ張り、委員会室から出たAに対して手拳で殴打し、足蹴りにするなどの暴行を行なった。

第1審は、委員長の権限について、「その性質上、審議中に限らず、……審議に接着した時間で、その間の議場(委員会室)の静ひつが円滑、適正な審議を確保するために必要であると認められる時間内は、これを行使することができる」として、本件暴行が「委員長としてその職務を執行中に加えられた」と判断し、公務執行妨害罪の成立を認めた。

 控訴審もまた、「委員会の……閉会あるいは休憩宣言後であっても、引き続きこれと接着した時間内入に、当該委員会の議事に関して紛議が生じたような場合には、……右宣言後であっても、引き続き右紛議に対処するよう求められている間は、なお委員長としての議事の整理及び秩序所保持の職務の執行中であるというべき」であるとして、「その対処を求められている間に暴行が開始された以上、右委員長が、本体、委員会を開催すべき場所である委員会室から退去し、暴行を避ける行動のみをしていたとしても、時間的場所的に接着した範囲内で、右暴行が継続しているときは、その暴行は、『職務ヲ執行スルニ当タリ』加えられたものと解する」と判断し、第1審の判断を維持した。

 これに対して、被告人が上告した。

【争点】
 公務執行妨害罪の実行行為は、暴行または脅迫であり、それが向けられる客体は、公務員である。ただし、その公務員が「職務を執行するに当たり」暴行・脅迫が加えられていなければ、公務執行妨害罪は成立しない。

 この「職務を執行するに当たり」とは、どのような意味か。公務員が職務を執行している最中であることはいうまでもない。また、職務を執行する直前も含まれる。何故ならば、その時点で暴行を加えられると、職務を執行できなくなるからである。また、職務が終了した直後であっても、暴行が加えられた場所が職務を執行する場所であったならば、その暴行に対処することもまた職務の一環であるような場合には、すでに終了した職務と一体的な職務として扱うこともできる。

 では、一定時間にわたって継続して執行される職務の休憩時間は、どのように評価されるのか。休憩時間は「職務を執行するに当たり」には該当しないならば、公務員に暴行を加えても、それは単純な暴行罪(刑法208条)にとどまる。」

【裁判所の判断】
 原判決の認定によれば、熊本県議会公害対策特別委員会委員長Aは、同委員会の議事を整理し、秩序を保持する職責を有するものであり、休憩宣言により職務の執行を終えたものではなく、休憩宣言後も、前記職責にもとづき、委員会の秩序を保持し、右紛議に対処するための職務を現に執行していたものと認めるのが相当であるから、同委員長に対して加えられた前記暴行が公務執行妨害罪を構成することは明らかであり、これを同旨の原判断は正当である。

【解説】
 休憩中である以上、職務の執行は行なわれていないと解することもできるが、休憩に入ったのは、紛糾した議事を正常に戻すためであったので、それは議事が中断されたことを意味するだけで、紛糾を解決し、議事を正常に戻すための委員長Aの職務は、継続して行なわれていると認定することができる。

公務執行妨害罪における「暴行」の程度(最判昭和33・9・30刑集12巻13号3151頁)

【事実の概要】
 政党の文化行事に参加していたX、Y、Zらは、警備・交通整理のために出動していた警察官に反感をいだき、それぞれに投石した。

 Xは、巡査Aに対して背後から投石し、その耳をあたりをかすめさせた。Yは、巡査Bに対して投石し、その鉄兜に命中させた。そして、Zは、巡査Cが装甲車に乗車した直後に投石し、その臀部(でんぶ)に命中させた。

 第1審は、被告人らが警察官に投石しただけでは、ただちにその職務執行の妨害になるということはできず、投げられた石の大小、個数、投げられたときの状況などを考慮しても、職務執行の妨害となりうるべき程度のものと認めるには証拠が十分でないと判断し、暴行罪の成立を認めた。

 控訴審は、検察官の控訴を棄却して、第1審の判断を維持した。

 これに検察官が上告した。

【争点】
 公務執行妨害罪は、職務を執行するにあたり、公務員に暴行・脅迫を加える行為である。暴行・脅迫は、それ自体として犯罪として処罰される行為である。

 では、公務執行妨害罪の実行行為の暴行・脅迫の程度と単純暴行・脅迫の程度は、同一か。それとも、前者は公務の執行を妨害しうる程度の暴行・脅迫であるため、後者よりも重大な程度の行為であることを要するのか。それを区別する基準は何か。

【裁判所の判断】
 公務執行妨害罪は公務員が職務を執行するに当たりこれに対して暴行又は脅迫を加えたときは直ちに成立するものであって、その暴行又は脅迫はこれにより現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とするものではなく、妨害となるべきものであれば足りうるものである。……。そして投石行為はそれが相手に命中した場合は勿論、命中しなかった場合においても本件のような状況の下に行われたときは、暴行であることはいうまでもなく、しかもそれは相手の行動の自由を阻害すべき性質のものであることは経験則上疑を容れないものというべきである。されば本件被告人等の各投石行為はその相手方である前記各巡査の職務執行の妨害となるべき性質のものであり、従って公務執行妨害罪の構成要件たる暴行に該当することが明らかである。そうだとすれば被告人等の各投石行為がたとえ只1回の瞬間的なものであったとしても、かかる投石行為があったというときは、……直ちに公務執行妨害罪の成立があるものといわなければならない。

【解説】
 最高裁は、公務執行妨害罪の暴行・脅迫の程度と単純暴行罪・脅迫罪の程度を一応区別している。それは、職務執行者の「妨害とばるべきものであれば足りうる」と解していることから明らかである。また、本件の投石に関しても、「相手の自由を阻害すべき性質のものである」と認定し、それゆえ巡査の「職務執行の妨害となるべき性質のもの」であると判断している。

 ただし、職務執行中の警察官に投石すれば、それによって直ちに公務執行妨害罪が成立すると解すべきではない。その投石の回数、投げられた石の大小、状況などを総合的に考慮し、いかなる職務が妨害されそうになったのか、その職務の具体的な内容との関係において判断する必要がある。

仮処分の公示札の有効性(最決昭和62・9・30刑集41巻6号297頁)

【事実の概要】
 被告人は、ゴルフ練習場をつくるため、A・Bから賃借したとされる土地の両方にまたがる一区画を整地し、その周囲にコンクリート製支柱11本を建てた。すると、Bの申立により、裁判所が仮処分を命令し、執行官が、Bの土地に対する被告人の占有を解いて、執行官の占有に移し、「同土地の執行官保管と工事続行禁止を知らせる公示札」を立てる仮処分を執行した。

 しかし被告人らは、事情を知らない工事業者をして、支柱にネットを張らせ、練習場として囲い込んだ。そのとき「公示札」は、何者かの仕業によって、包装紙で覆われており、そのままでは内容を読むことはできなかった。

 第1審および原審は、封印破棄罪と不動産侵奪罪の観念的競合の成立を認めた。

 これに対して、弁護人が上告した。公示札とは、差押え内容を記載して、一般に公示して容易に一般に衆知させることを本質的な効用としており、本件公示札は内容が読めなくなっているのであるから、差押えは無効であり、封印破棄罪を認めた原判決は判例違反であると主張した。

【争点】
 封印破棄罪(刑法96条)とは、公務員が施した封印もしくは差押えの表示を損壊し、またはその他の方法によりその封印もしくは差押えの表示に係る命令もしくは処分を無効にする行為である。

 例えば、税務署の職員が、税金の滞納者に対して、一定の財産を差し押さえるときに、「封印」や「差押えの表示」をする。税金を納めるよう通知し、滞納の場合には差押えすると警告したにもかかわらず、納税しなかった場合には、税務署はこのような財産の差押えという措置をとることができる。封印や差押えの表示を破棄する行為は、国家による行政的な措置を無効にするので、刑罰で対処される。

 封印や差押えの表示には、様々な形態のものがある。自動車などであれば、ドアを開けることができないように封印する。小さな財物であれば、差押えの表示を貼付する。土地などであれば、占有禁止や工事禁止などと書かれた公示札を立てる。行為者が、そのような行政処分の執行を意味して封印や差押えの表示、公示札を破棄した場合、封印破棄罪の構成要件に該当し、行為者がその意味を認識している場合、その故意が認められる。

 土地の周辺に札が立てられていても、その札に「同土地の執行官保管と工事続行禁止」と書かれていなければ、その札は「仮処分の公示札」であるとはいえない。また、書かれてあっても、それが読めない状態であれば、除去した者に「仮処分の公示札」を除去した認識(封印破棄の故意)があるとはいえない。

【裁判所の判断】
 仮処分の公示札は、被告人が本件行為に及んだ際には、仮処分執行の際執行官が建てた場所に外見上も立札とわかるように立っており、包装紙で覆われその上からビニールひもが十文字に掛けられていて、そのままではその記載内容を知ることができなかったものの、右包装紙、ビニールひもとも容易に除去して記載内容を明らかにすることができる状態にあったというのであるから、右公示札は、差押の標示としての効力を一部減殺されてはいたけれど、いまだその効力を滅却されるまでには至っておらず、有効な差押の標示として刑法96条の罪の客体になるというべきである。

【解説】
 被告人が「同土地の執行官保管と工事続行禁止を知らせる公示札」が立てられていることを知りながら、土地の四隅に支柱を立てて、ネットを張ったならば、封印破棄罪と不動産侵奪罪が成立することは明らかである。しかし、本件では、支柱を立てて、ネットを張ったのは、工事業者であった。しかも公示札は何者かの仕業によって包装紙で覆われていた。

 このような場合、公示札は包装紙で覆われていても、その効果はなおも持続していたというならば、工事業者の行為は客観的に見て封印破棄罪の構成要件に該当する違法な行為であるといえる。しかし、工事業者にその故意がなければ、封印破棄罪は成立しない。

 かりに、被告人が公示札が立てられていることを知りながら、工事業者に公示札が立てられていることを告げずに、ネットを張らせた場合、被告人は工事業者を利用した封印破棄罪の間接正犯にあたる。ただし、その場合、公示札の効果が持続していることが必要である。もはや持続していなければ、被告人が工事業者を利用してネットを張らせても、客観的に見て封印破棄罪の構成要件に該当する行為を行ったとはいえない。せいぜい不動産侵奪罪の間接正犯にとどまる。

強制執行妨害罪と債務名義の存在(最判昭和35・6・24刑集14巻8号尾1103頁)

【事実の概要】
 Sは、被告人とその実弟を相手に、貸金110万円の連帯保証債務について訴訟を提起され、訴状の送達を受けた。被告人は、Sが主張する債権にもとづく強制執行を免れるため、妻と共謀のうえ、被告人所有の宅地建物を長女名義に仮装譲渡した。

 被告人は、刑法96条の2の「強制執行妨害目的財産仮装譲渡罪」で起訴された。

 第1審は、「被告人はSに対して判示の如き保証債務を負担するものであることを認められないことはない」と、被告人がSに対して債務を有していることを認める判示をした。つまり、被告人には強制執行を受けるべき財産があることを認め、被告人はその強制執行を免れる目的で宅地建物を長女名義にすることで、財産を仮装譲渡したと認定し、「強制執行妨害目的財産仮装譲渡罪」の成立を認めた。控訴審も同様の判断を示した。

 しかし、控訴審の判決の2日前に、同時並行で進められていた民事の裁判である貸金請求事件第1審判決において、被告人に保証債務は存在しないとする民事判決が出され、その後の第2審判決も原告Sの控訴を棄却する判断を示したために、被告人に保証債務がないことが法的に確定した。つまり、民事裁判は、被告人にはSに対する保証債務はないと判断したのである。

 控訴審の判断では、民事の第1審判決が出る2日前に、被告人が強制執行を免れるために、宅地建物を長女に仮装譲渡したことが強制執行妨害にあたると判断されたのであるが、この判断は、Sには債権があり、被告人には保証債務があることを前提としていた。民事裁判において被告人の債務保証が否定されたため、被告人が上告した。

【争点】
 強制執行妨害目的財産仮装譲渡罪は、強制執行を妨害する目的から、強制執行を受けている財産または受けるべき財産を仮装譲渡した場合に成立する。その成立の前提には、強制執行を受けている財産または受けるべき財産の存在が必要である。

 本件において、被告人は強制執行を受けるべき立場にあったのか。あったならば、長女に譲渡した宅地建物は、強制執行を受けるべき財産であるといえる。それを仮装譲渡したのであれば、本罪が成立する。

 では、被告人には強制執行を受けるべき立場にあったのか。それは何を基準に判断するのか。

【裁判所の判断】
 およそ刑法96条の2の罪は、国家行為たる強制執行の適正に行われることを担保する趣意をもって設けられたものであることは疑のないところである。けれども、強制執行は、要するに債権の実行のための手段であって、同条は究極するところ債権者の債権保護をその手段とする規程である。同条の「強制執行ヲ免ルル目的」は、「単に犯人の主観的認識若しくは意図だけでは足りず、客観的に、その目的実現の可能性の存することが必要であって、同条の罪の成立するがためには現実に強制執行を受けるおそれのある客観的な状態の下において、強制執行を免れる目的をもって同条所定の行為を為すことを要する」。いかなる場合に強制執行を受けるおそれありと認めるべきかは、具体的な事案について個々に決するの外ないのであるが、本件のように、何らの執行名義も存在せず、単に債権者がその債権の履行請求の訴訟を提起したというだけの事実をもっては足らず、かくのごとき場合に本条の罪の成立を肯定するがためには、かならず、刑事訴訟の審理過程において、その基本たる債権の存否が確定されていなければならないから、刑事訴訟の審理過程において債権の存在が否定されたときは、保護法益の存在を欠くものとして本条の罪の成立は否定されなければならない。

【解説】
 債権者が債権を行使するために、債務者の財産を差し押さえることは、一般に行なわれており、それを妨害すると、強制執行妨害にあたることは明らかである。ただし、そのためには債権が存在することが前提である。

 強制執行妨害目的財産仮装譲渡罪の刑事裁判が終了するまでに、債権または強制執行を受けるべき財産の存在が確定していなければならない。

 本件では、控訴審の判断が出される2日前に、民事裁判において被告人(債務者)には債務がないことが示された。そうすると、刑事裁判においても、その判断に従って、強制執行妨害目的財産仮装譲渡罪における「強制執行を受けるべき財産」は存在していないことになる。

公務員の補助者に対する暴行・脅迫(最判昭和41・3・24刑集20巻3号129頁)

【事実の概要】
 被告人は、A社を解雇された後、社宅から立ち退かなかった。そのため、A社は、社宅の明け渡しの民事訴訟を提起し、それに勝訴したので、執行吏Bに判決の執行を委託した。Bは、A社の社員Cらとともに、被告人に対する社宅明け渡しの強制執行に着手した。すると、被告人は、Cらが執行吏Bの指揮のもとに、その補助者として執行行為に関与していることを十分に察知しながら、暴行・脅迫を加えるなどし、ケガを負わせた。そのため、Bは強制執行を一時中止せざるをえなくなった。

 被告人は、公務執行妨害罪と傷害罪で起訴され、第1審・控訴審ともにそれを認めた。

 被告人は、暴行・脅迫は非公務員であるCに加えたものであって、公務員であるBに対するものではなかったこと、Cに加えた暴行・脅迫がBに加えたものと同視できるかどうかは審理し尽くされていないとして上告した。

【争点】
 公務の執行を公務員が単独で行う場合、または単独で行うことが可能である場合、それを非公務員が補助する必要はなく、また実際にも非公務員が補助することもない。

 しかし、公務員が単独で行いえない場合、非公務員がそれを補助することがある。その非公務員に対して暴行・脅迫を加えた場合、それは単純な暴行罪・脅迫罪にとどまるのか、それとも公務執行妨害罪にあたるのか。

【裁判所の判断】
 刑法95条1項に規定する公務執行妨害罪の成立には、公務員が職務の執行をなすに当り、その職務の執行を妨害するに足りる暴行脅迫がなされることを要するけれども、その暴行脅迫は、必ずしも直接に当該公務員の身体に対して加えられる場合に限らず、当該公務員の指揮に従いその手足となりその職務の執行に密接不可分の関係において関与する補助者に対してなされた場合もこれに該当すると解するを相当とする。本件において、被告人はB執行吏がその職務の執行をなすに当り、公務員ではないがその補助者として同執行吏の命によりその指示に従って被告人方の可罪道具を屋外に搬出中のCに対し第1審判時の暴行脅迫を加えたもので、その際被告人方の出入口又は戸外において執行を指揮していた右執行吏をして、右暴行脅迫により一時執行を中止するの止むなきに至らしめたものであるから、本件被告人の所為は、直接公務員である同執行吏に対してなされたものではないとしても、同執行吏の職務の執行を妨害する暴行脅迫に該当するとした原審の判断は、右説示に照らして正当である。

【解説】
 95条1項は、公務員が職務を執行するに当たり、「これ」に対して暴行・脅迫する行為を規定している。「これ」の中に職務執行する公務員が含まれることは明らかであるが、職務が公務員だけでなく、民間人の協力を得て行なわれる場合があることを踏まえると、「これ」の中に公務員の補助者・協力者も含まれると解する必要がある。

 公務員の職務が補助者の協力を得て行われる場合、公務員と補助者は一体となって職務の執行に当たることになる。暴行・脅迫が補助者だけに向けられ、その暴行・脅迫によって補助者の職務の執行が妨害されるおそれがある場合、その暴行・脅迫によって公務員の職務もまた妨害されることになるので、その暴行・脅迫は公務員に対する暴行・脅迫に該当するといえる。

偽計競売入札妨害罪の成否(最決平成10・7・14刑種52巻5号343頁)

【事実の概要】
 被告人は、徳島地方裁判所が競売開始決定をした不動産につき、その公正な競売の実施を阻止しようと企て、同不動産につき、短期賃貸借契約が締結されている旨の虚偽の写しを、同契約書の内容が真正なもののように装って郵送により提出し、前記競売物件は既に他に賃借されているので取調べを要求する旨の上申書に添付した。

 被告人らは、偽計競売入札妨害罪により起訴された。

【争点】
 現行刑法96条の3の「偽計競売入札妨害罪」は、偽計又は威力を用いて、強制執行において行われ、又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると規定している。

 平成23年改正以前の規定は、偽計又は威力を用いて、公の競売または入札の公正を害すべき行為をした者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処すると規定していた。本件事案には、この平成23年改正以前の規定が適用された。

 本件では、被告人の短期賃貸借契約書の写しの送付行為が偽計にあたるかが問題になった。

【裁判所の判断】
 原判決の認定によれば、被告人は、A、B及びCらと共謀の上、徳島地方裁判所が不動産競売の開始決定をしたAら所有の土地建物について、その売却の公正な実施を阻止しようと企て、同裁判所に対し、賃貸借契約が存在しないのにあるかのように装い、右土地建物は既に他に賃貸されているので取調べを要求する旨の上申書とともに、AらとB、Cとの間でそれぞれ競売開始決定より前に短期賃貸借契約が締結されていた旨の内容虚偽の各賃貸借契約書の写しを提出したというのであるから、被告人に刑法96条の3第1項所定の偽計による競売入札妨害罪が成立することは明らかであり、これを同旨の原判決の判断は、正当である。

【解説】
 例えば、Xにアパートの部屋を貸している大家Yが何らかの事情でそのアパートの建物が差し押さえられ、それに対して競売の申立がなされたとする。Xはすぐにでも建物から出て行かなくてはならないのか。

 競売にかけられた賃貸物件に抵当権などの担保が設定されている場合、賃借人の利益と担保権者の利益は相反するため、両者の利益を調整する必要が出てくる。法律は、「対抗要件」という制度を設けて、両者の利益を調整している。すなわち、賃借人と担保権者のいずれが先に対抗要件を備えたかで、優先関係を決めることになる。ここで対抗要件というのは、自分の権利を他の人に主張できるための要件であり、一般的には登記をすることによって対抗要件を備えることになるが、建物の賃借権の場合は、賃借人保護の見地から、賃借権の登記を備えていなくても、賃貸借契約などによって建物の引渡しを受け、そこに住んでいれば、対抗要件を備えたことになるとされている。

 被告人は、不動産が競売にかけられるのを阻止するため、この不動産を誰かと賃貸借契約をしていることにして、競売を阻止しようとした。賃貸借の事実がなければ、そのような契約書の写しを送付し、取調べを要求する上申をするのは「偽計」にあたるといわなければならない。

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