「機会継続性 追及可能性」刑法の論述問題における解答の仕方

窃盗の機会継続性と追及可能性の関係

 甲(75才・男)は、C県D町の一戸建てに住んでいた。甲宅の東側に隣接している一戸建てには、A女とその実姉のB女(79才)が居住していた。A女らが住む住宅(以下「A女宅」という)は、木造2階建てであり、1回にはトイレや台所のほか4畳半と8畳の和室があった。
 甲は遊興費欲しさから、A女宅に侵入して、金銭等を窃取することを決意した。そこで、甲は、某日の午前9時ごろ、A女が外出するのを確認した後、金品窃取の目的で、A女宅1階の無施錠の勝手口から中に入った。そして、甲は、勝手口の南側にある4畳半和室においてA女の現金約7万円および財布等12点在中の手提げバッグ1個(以下、「現金およびバッグ等」という)を手に取り、そこから退出すべく勝手口に向かったところ、同和室の西側に隣接し、ふすまが開いたままの8畳和室から「ガサッ」という物音が聞こえた。甲は、A女またはB女に犯行を目撃されたのではないかと思い、現金およびバッグ等をその場に置いて、振り返ることなく勝手口から逃走し、自宅に戻った。その際、甲は、誰からも追跡されることはなかった。
 甲は、隣室から物音が聞こえたことから、A女またはA女と同居しているB女に自己の犯行を目撃されたと考えて、口封じのためにその殺害を決意した。そこで、甲は、帰宅してから10分から15分ほど過ごした後、再びA女宅に赴いた。そして、甲は、勝手口からA女宅内に入り、4畳半和室を通って8畳和室に入ったところ、同室には、B女がその南西側の角付近で、居眠りをしながら南側に向かって座っていた。甲は、B女を発見するや、B女が居眠りしていることに気付かないまま、同女に犯行を目撃されたと考え、自己の犯罪行為を隠すために、背後からその肩をつかんで引き回したうえ、うつぶせに倒し、その背部に馬乗りになって、部屋に落ちていたストッキングをB女の頸部に巻き付けて締め上げ、同女を窒息させて死亡させた。
 A女は甲の犯行時間帯には外出していた。B女は甲の犯行を目撃していなかった。甲の犯行を目撃した人がいたかは明らかではなかった。

(1)問題の所在


 甲がA女宅に入った後、現金およびバッグ等を手にしたが、AまたはBに犯行を目撃されたと思い、それを置いて自宅へ戻った。その後、甲はA女またはB女に目撃されたと考え、その口を封ずるために殺害することを決意し、10分から15分後に、A女宅に行き、そこにいたB女を殺害した。甲の行為は強盗殺人罪にあたるか。

(2)強盗殺人罪の成立要件

 強盗殺人罪とは、強盗が被害者などを故意に殺害する行為である(240条)。この強盗には、通常の強盗罪(236条)の他、昏睡強盗罪(237条)や事後強盗罪(238条)も含まれる。本件の事案では、甲は窃盗未遂後にB女を殺害しているので、甲の行為が事後強盗罪の要件を満たしているかが問題となる。

(3)事後強盗罪の成立要件

 事後強盗罪とは、「窃盗が財物を得てこれを取り戻されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫」(238条)をする行為である。
 行為主体は「窃盗」である。財物を「取り返されるのを防ぎ」との規定との関係から、「窃盗」は窃盗既遂であると解されるが、「逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するため」との規定との関係から、窃盗未遂の行為者も含まれる。
 本罪の実行行為は、窃盗既遂等の被害者などに対する暴行または脅迫である。強盗罪(236)と同様に、被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものでなければならない。また、それが窃盗既遂・窃盗未遂と時間的・場所的に接着した関係において、すなわち窃盗の機械継続中においてなされたものであることを要する。
 さらに、その行為は、被害者による財物の取り戻しを防ぎ、逮捕を免れ、罪跡を隠滅する目的から行われていなければならない。行為者が所定の目的から行っただけでなく、被害者が財物の取り戻すなどの追及可能な状況(追及可能性)があることを要する。この行為が故意の殺害にあたる場合、(事後)強盗殺人罪が成立する。

(4)検討

 本件の事案において、甲はA女宅に窃盗目的で立ち入り、現金およびバッグ等を手にしたものの、それを置いたまま自宅へ戻っている。従って、事後強盗罪の行為主体である「窃盗」(窃盗未遂)に該当する。
 そして、自宅で10分から15分ほど過ごした後、A女宅に行き、B女を殺害している。この殺人行為はすでに行われた窃盗未遂から15分後に行われ、またその場所も窃盗未遂の犯行現場と同じ場所であった。甲がB女を殺害したのは窃盗未遂から15分ほど経過した時点であり、短時間しか経過していないので、窃盗未遂と殺人との時間的接着性を認めることができるといえる。また、殺人の場所は窃盗未遂の犯行現場と同一であるので、場所的接着性も認められるであろう。確かに、甲は窃盗未遂後、犯行現場から離れ、自宅に戻っているので、場所的接着性はもはや問題になりえないともいえるが、犯人が犯行後に現場に戻ってくることはあり得ないことではない。また甲の自宅はA女宅に隣接し、非常に近い場所にあったことを勘案するならば、窃盗未遂と殺人の場所的接着性を認めることができるであろう。
 さらに、甲はA女またはB女に窃盗未遂を目撃されたと思い、その口封じのために殺害を決意したので、B女の殺害は罪跡を隠滅する目的に基づいていたことは明らかである。ただし、この目的は行為者のたんなる主観的な目的ではなく、窃盗未遂の被害者などから逮捕されるなどの客観的な状況(いわゆる追及可能性)において行われているものでなければならない。事後強盗罪の行為である暴行・脅迫が強盗として論ぜられるのは、「窃盗」という主体が行ったことに加えて、財物の追求権や現行犯逮捕する権利など被害者の被害回復のための権利を侵害し、罪跡を隠滅するなどの捜査妨害を行ったからである。行為者の暴行・脅迫は、このような追及可能性がある中で行われた場合に、窃盗罪と暴行罪・脅迫罪の併合罪ではなく、事後強盗罪として論ずることができる。
 ただし、この追及可能性は、被害者などが実際に財物を取り戻す行為や現行犯逮捕する行為を行っているこは必要ではなく、あくまでもその可能性で足りる。少なくとも被害者などによって窃盗が目撃されたことで足りると解される。本件の事案において、甲の窃盗未遂は、A女は外出中であったため目撃しておらず、B女もまた居眠りをしていたため目撃しておらず、それ以外に目撃者がいたことも明らかではない。このような事情を踏まえると、甲は窃盗未遂後に、その時間的・場所的に接着した関係において、罪跡を隠滅する目的に基づいてB女を殺害したとはいえても、追及可能性のある状況の中で行ったと認めることはできない。従って、甲によるB女の殺害は(事後)強盗殺人にはあたらない。それは窃盗未遂罪と殺人罪の2罪を構成するにとどまる。

(5)結論

 甲の行為は、窃盗未遂罪(235条、243条、43条)と殺人罪(199条)にあたる。両罪は併合罪(45条)となる。
 また、A女宅に2回侵入しているが、それは窃盗の機械継続中に行われているので、包括して1個の住居侵入罪が成立する。住居侵入罪と窃盗未遂罪および殺人罪の併合罪とは、牽連犯(54条後)にあたる。

若干の検討課題


 若干の検討課題を提示しておきます。それは、「窃盗の機会継続性」と「追及可能性」の関係に関する問題です。
 この種の問題を解くにあたって、最高裁の判例(最決平成14年2月14日刑集56巻2号86頁)が引き合いに出されることがあります。その判例は、「事後強盗罪における窃盗の機会」の理解と当てはめの基準を示したものであり、次のように理解されています。
「事後強盗における暴行・脅迫行為は、窃盗の機会の継続中に行われることを要する。具体的には、被害者等から容易に発見され、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況が継続していたかどうか、時間的場所的接着性を相関的に判断して決する」。
 この理解によれば、事後強盗罪が成立するためには、暴行・脅迫が「窃盗の機会継続中」において行われたことが必要です。この見解は、従来の判例通りであり、窃盗の機会継続中であるか否かは、窃盗と暴行・脅迫の時間的接着性と場所的接着性という客観的・事実的な状況を踏まえて判断されます。ただし、この判例の理解では、「具体的には、被害者等から容易に発見され、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況が継続していたかどうか、時間的場所的接着性を相関的に判断して決する」とあります。日本語の文章がわかりにくいところもありますが、「窃盗の機会継続性」の有無の判断は、窃盗と暴行・脅迫との時間的・場所的接着性という客観的・事実的な状況だけでなく、窃盗犯が被害者から発見される容易性、財物奪還や現行犯逮捕の客観的可能性などを含めて相関的に判断するという趣旨であると思われます。この客観的可能性が、いわゆる「追及可能性」のことです。この理解では、窃盗の機会継続性があったか否かを判断するためには、窃盗と暴行・脅迫の時間的・場所的接着性があり、追及可能性があり、そしてそれらを相関的に判断して決定することになります。
 上記の回答例は、このような理解に基づいていません。回答例では、窃盗の機会継続性と追及可能性は、事後強盗罪の成立要件としては別個のものであると理解しています。窃盗の機会継続性は、窃盗と暴行・脅迫の時間的・場所的接着性を基準に判断し、追及可能性は被害者による目撃の有無を基準に判断しています。それは何故かというと、事後強盗罪が成立するためには、行為者が被害者などに暴行・脅迫を加えていることが必要ですが、それは逮捕を免れる目的という主観的目的によるだけでなく、実際に逮捕される客観的状況が必要だと考えられるからです。少なくとも、窃盗の犯行が被害者に目撃されていれば、逮捕されるなどの客観的状況が認められます。
 窃盗の機会継続中の暴行・脅迫が、なぜ強盗として論ぜられかというと、それは財物被害と人身被害を超える被害が発生しているからです。財物被害と人身被害だけであれば、窃盗罪と暴行罪・脅迫罪の併合罪として論ずれば足ります。それを強盗として論ずるのは、さらに財物の追求権侵害や捜査妨害などが加えられるからです。そのように考えれば、事後強盗罪は、窃盗犯が、その時間的・場所的に接着した状況において、財物が奪い返され、または現行犯逮捕を免れる目的に基づいて被害者などに暴行・脅迫を加えているだけでなく、実際にも財物が奪い返され、または現行犯逮捕される客観的な状況のなかにおいて暴行・脅迫を加えていることが必要であると思います。
 これに対して上記判例の理解に基づくならば、窃盗の機会継続性の要件として、時間的・場所的接着性と追及可能性が必要であると述べて、前者は認められても、後者は認められないので、窃盗の機会継続性の要件は認められないと判断して、窃盗未遂と殺人既遂の併合罪とするば良いでしょう。

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