法学部生必見 刑法の論述問題の書き方「業務上横領 詐欺罪」

盗品等に関する罪

 手形ブローカー甲は、知り合いのA土木建築会社の経理部長乙から、乙の抱える借金について相談を持ち掛けられた。甲は、小遣いを稼げそうないい機会だと思い、乙に、「お前の会社の手形を持ち出して金に換えてみてはどうか。」と申し向けた。乙は、最初は渋っていたが、甲の説得に聞き入っているうちに、それしか借金苦から逃れる方法はないと決意した。そこで、乙は、深夜残業が終わったあと、自分の管理するロッカーから約束手形100通を持ち出した。
 乙は、換金はその道のプロに頼むのがよいと思い、帰宅途中に甲を呼び出し、上記手形を甲に預けた。甲は、A社の子会社であるB会社に対し、「報酬をはずんでくれるなら、A社が紛失した手形をなんとか入手してやってもいい。」と申し向けたところ、B社は、これに応じ、甲に8000万円を支払って上記手形を回収した。ところが、甲は、代金8000万円のうち4000万円を消費し、乙には、「4000万円でしか売れなかった。」と言って納得させ、残りの4000万円を乙に手交した。甲および乙の罪責を論ぜよ。

論点 

(1)乙は、自己が管理するA会社のロッカーから約束手形100通を持ち出した。

(2)甲は、A会社の約束手形を換金するよう乙をそそのかして、実行させた。

(3)甲は、乙から受け取った約束手形を、A会社の子会社であるB会社に対して、「A社が紛失した手形をなんとか入手してやってもいい。」と申し向け、B会社は甲に8000万円を支払って手形を回収した。

(4)甲は、B会社から受領した8000万円のうち、乙を「4000万でしか売れなかった」と欺いて、残りの4000万円を自己のものにした。

解答例

(1)乙は、自己が管理するA会社のロッカーから約束手形100通を持ち出した(まず正犯の罪責)。

1乙の行為は業務上横領罪にあたるか。

2業務上横領罪とは、業務として自己が占有する他人の物を横領する行為である。

3乙は、自己が管理するA会社のロッカーから、約束手形100通を持ち出した。

4経理部長の業務としてA会社の約束手形を管理する乙が、それを会社に無断で持ち出した。この行為は権利者でなければ行えない行為であり、横領にあたる。また、約束手形を換金して借金の返済にあてる目的があったので、不法領得の意思も認められる。

5乙には業務上横領罪(刑法253条)が成立する。

(2)甲は、A会社の約束手形を換金するよう甲をそそのかして、実行させた(次いで共犯の罪責)。

1甲に業務上横領罪の教唆が成立するか。

2教唆とは、人をそそのかして犯罪を実行させることをいう。

3甲は、会社の約束手形を財務部長の業務として管理している乙にそれを換金するよう申し向けた。

4乙の行為は業務上横領罪であり、それは非業務者による横領を業務者が行った場合の加重的身分犯である。業務者である乙に業務上横領罪を行うよう、非業務者である甲が教唆した場合、甲の行為には刑法65条2項が適用され、「通常の刑」が科される。つまり、加重前の通常の刑を定めた横領罪の教唆が成立する。

5従って、甲には単純横領罪の教唆が成立する(刑法252条、61条1項)。

(3)甲は、乙から受け取った約束手形を、A会社の子会社であるB会社に対して、「A社が紛失した手形をなんとか入手してやってもいい。」と申し向け、B会社は甲に8000万円を支払って手形を回収した。

1甲の行為は、盗品等の有償処分のあっせん罪にあたるか。

2盗品等の有償処分のあっせん罪とは、財産犯にあたる行為によって領得された財物を他人に有償で買い取らせるなどのあっせんをする行為である。

3甲は、乙から預かったA会社の約束手形をその子会社のB会社に8000万円で買い取らせた。

4甲がB会社に買い取らせた約束手形は乙が業務上横領によって領得した物であり、本罪の客体にあたる。それをB会社に買い取らせるよう働きかけたので、有償処分のあっせんにあたる。ただし、その約束手形はB会社からすれば、親会社Aの約束手形であり、自分自身も被害者を受けた約束手形であるといえる。そうすると、甲は業務上横領罪の被害者であるBに対して、被害物を取り返させたということもできる。そうであれば、盗品等の有償処分のあっせんにあたらない。しかし、被害者のBは、被害物を無償で取り戻す権利があり、8000万円を支払って領得された手形小切手を取り戻すのは、本来的な被害の回復方法とはいえない。甲の行為は本来的な被害の回復を侵害しているので、盗品等の有償処分のあっせんにあたるといえる。

5従って、甲には盗品等の有償処分のあっせん罪(刑法256条2項)が成立する。

 なお、甲はB社に対して、A社が約束手形を紛失したと虚偽の事実を告知している。乙がその約束手形を横領した事実を告知されていれば、8000万円を甲に交付しなかったと言えるなら、甲に詐欺罪が成立する。ただし、Bは真実を告げられたとしても、子会社としてそれを取り戻すために8000万円を交付した可能性を排除することはできない。したがって、Bは甲の欺く行為によって錯誤に陥れられたとしても、8000万円を交付したのは、その錯誤によるものではないので、詐欺罪が成立するとはいえない。

(4)甲は、B会社から受領した8000万円のうち、乙を「4000万でしか売れなかった」と欺いて、残りの4000万円を自己のものにした。

1甲の行為は横領罪にあたるか。

2横領罪とは、自己が占有する他人の物を自分のものにする行為である。

3甲は、乙から預かった約束手形を換金して受領した8000万円のうち4000万円を消費した。

4甲は乙から預かった約束手形を換金して8000万円受領しているので、甲が占有しているのは乙の金銭である。ただし、その約束手形は乙が業務上横領によって領得したものであり、8000万円はそれを換金して得られた金銭であり、乙にはそれを返還するよう求める権利はない。しかし、乙に返還請求権がないことを理由に、その金銭が甲のものになることはありえない。依然としてその金銭は甲のものではなく、他人のものである。甲は他人の金銭4000万円を消費したので、それは横領にあたる。

結論

 以上から、甲には横領罪が成立する。

 なお、甲は乙に「4000万円でしか売れなかった」と虚偽の事実を告知して、消費した4000万円の返還を免れたので、利益詐欺罪が成立しそうである。しかし、それは横領後に横領の被害物を確保するための行為であり、横領罪の不可罰的事後行為であり、あらためて利益詐欺罪を構成しない。

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