法学部生必見 刑法の答案の書き方「背任罪 業務上横領罪」

 A信用金庫は、B会社と当座貸越契約を締結し多額の融資をしていたが、Bは経営状態が悪化し、倒産の危機に陥った。Aは多額の融資を行っていたため、Bが倒産すれば、Aの経営に重大な影響が及ぶものであった。また、Aの理事長甲については、その経営責任を問われるおそれも生じた。
 そのため、甲は、Bが実際には手形の決済能力がなかったにもかかわらず、一時的にBの当座貸越残高を減少させ、Bに債務の弁済能力がある外観を仮装し、Aに取引を継続させるとともに、さらにBへの融資を行わせようと計画した。
 そこで、甲は、Bの代表取締役乙と共謀して、Bが降り出した約束手形10通につきAに手形保証債務を負担させた。そして、このうち8通については、Bが第三者に振り出し、それによって得られた金銭にBの資金を加えることにより、8通分の手形金額に見合うだけの金銭が、当座借越債務の弁済に充当され、一時的に当座貸越残高を減少させた。その結果、Aからの融資が継続された。
 さらに、乙はBの経営状態を回復させようとして、自己の権限内において多額の投機取引を行ったが、失敗し、Bに損害を加えた。そこで、経営危機に絶望感を抱いた乙は、会社再建の資金にあてることもあるだろうと思いつつも、とりあえず自己の逃走資金とするために、会社の金を自宅の屋根裏に隠した。

 甲および乙の罪責を論ぜよ。

論点 

(1)A金庫の甲が、B会社の乙と共謀し、決済能力のないB会社が振り出した約束手形10通につき、A金庫に手形保証債務を負担させた。

(2)B会社の乙が、Bの経営状態を回復させるために、自己の権限内において投機取引を行い、失敗し、Bに損害を与えた。

(3)乙が逃走資金とするために、会社の金を自宅の屋根裏に隠した。

解答例

(1)A金庫の甲が、B会社の乙と共謀し、決済能力のないB会社が振り出した約束手形10通につき、Aに手形保証債務を負担させた。

1甲の行為につき、背任罪が成立するか。

2 背任罪とは、他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図るために、または本人に損害を加えるために、その任務に背く行為を行って、本人に財産上の損害を発生させる行為である。

3甲は、決済能力のないB会社が振り出した約束手形10通につき、A金庫に手形保証債務を負担させた。

4甲は、A金庫の理事長であり、A金庫のためにその事務を処理する者である(行為主体)。

 B会社が振り出した約束手形につき、A金庫に手形債務保を負担させるは、甲がA金庫の理事長として行う事務処理であるが、B会社に決済能力がないことを知りながら、それを行うのは任務違背行為にあたる(実行行為)。

 また、甲はB会社の倒産によって惹き起こされるA金庫の影響を回避する意図があったが、経営責任を問われるのを避けるために行っているので、自己の利益を図る目的があった(図利目的)。

 さらに、Bが振り出した約束手形10通につき手形債務保証をしたことについては、相当の担保や回収の見込みがなければ、その経済的な評価としては、保証した時点において財産上の損害がA金庫に発生していると評価することができる(財産上の損害)。

5従って、甲には背任罪(刑法247条)が成立する。

 B会社の乙は、A金庫の甲と共謀したので、背任罪の共同正犯にあたる。背任罪は「他人のためにその事務を処理する者」が行う真正身分犯(構成的身分犯)であり、それに非身分者が関与した場合、刑法65条1項が適用され、背任罪の共同正犯が成立する。

 乙は甲に対してA金庫からの融資の継続を願い出ただけでなく、甲と共同してA金庫から融資を受けれるようにするため計画段階から関与し、自らも利益を得ているので、その行為は甲の背任罪に重要な影響と寄与をなしているものと評価できる。それゆえ、乙には背任罪の共同正犯が成立する(刑法65条1項、60条、247条)。

(2)B会社の乙が、Bの経営状態を回復させるために、自己の権限内において投機取引を行い、失敗し、Bに損害を与えた。た。

1乙の行為は背任罪にあたるか。

2背任罪の説明(上記)

3乙は、B会社の経営状態を回復させようとして、自己の権限の範囲内において投機取引を行い、失敗し、B会社に損害を発生委させた。

4乙はB会社に財産上の損害を与えたが、それが背任罪にあたるためには、任務違背行為と本人加害目的が必要である。乙が投機取引を行ったのは、B会社の経営状態を回復させるためであり、本人加害目的によるものと言うことはできない。また、任務違背行為についても、乙の登記取引はその権限の範囲内において行われたものなので、それを認めることはできない。

5従って、乙には背任罪(刑247条)は成立しない。

(3)乙が逃走資金とするために、会社の金を自宅の屋根裏に隠した。

1乙に業務上横領罪が成立するか。

2業務上横領罪とは、業務として他人の物を占有する者が、それを領得することによって成立する。

3乙は、逃走資金とするために、会社の金を自宅の屋根裏に隠した。

4乙はA金庫の理事長として、Aの金銭の管理を全般的に任されている。業務としてAの金銭を占有する者であり、その金銭を自宅の屋根裏部屋に隠したが、A金庫の金銭は本来はA金庫の口座などに管理すべきものであり、それを自宅に持ち帰って隠したのであるから、横領にあたる。また、それを逃走資金とする目的で行っているので、権利者であるA金庫を排除し、その経済的用法に従って使用する目的があったことも明らかで、不法領得の意思を認めることができる。

5従って、乙に業務上横領罪(刑法253条)の成立を認めることができる。

結論

 甲には背任罪が成立する。乙には背任罪の共同正犯と業務上横領罪が成立し、両罪は併合罪(刑法45条)である。

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