法学部生必見 刑法の答案の書き方「強盗殺人罪①」

強盗殺人罪①

 暴力団員甲と乙は、密売人丙から覚せい剤をだまし取ろうと共謀し、ホテルの一室に丙を呼び出した。そして、甲は事前の打ち合わせどおり、「覚せい剤をほしがっている乙が隣室にいる。乙に見せるためにちょっと貸してほしい。」と言って丙から覚せい剤を借り、そのままホテルから逃走した。その後、不審に思った丙は、隣室へ赴き、逃げ遅れた乙に対し「覚せい剤を返せ。」と要求した。乙は、とっさに、丙の要求を封ずるために丙を殺害しようと考え、ひそかに隠し持っていたけん銃で丙を撃ち重傷を負わせた。甲および乙の罪責を論ぜよ。

 論点

(1)甲が乙に見せると偽って丙から覚せい剤(禁制品)を借りた行為

(2)甲の逃走後に共犯者・乙が丙を射殺しようとした行為

(1)甲の行為について

甲が乙に見せると偽って丙から禁制品である覚せい剤を借りた行為は、詐欺罪にあたるか。

 詐欺罪(刑法246条)とは、人を欺いて財物を交付させる行為である。欺くとは、虚偽の事実を真実であると誤信させ、錯誤に陥れることである。財物とは有体物である。交付とは、欺かれ錯誤に陥れられた人が欺いた人にその財物の占有を移転することである。

 甲は覚せい剤をだまし取ることを隠して、丙に対して覚せい剤を乙見せると偽って、丙から覚せい剤を受け取り、そのまま逃走した。

 覚せい剤は化学的な構造かならる物質であり、財物に該当する。しかし、それは法によって所持することなどが禁止されている。このような物でも財物に当たるか。たとえ禁制品であっても、一定の手続によらなければ押収・没収などできない。したがって、覚せい剤であっても、その限りにおいて財物として保護される。しかも、甲は丙に乙に見せると偽っているので、丙を欺いている。また、それにより錯誤に陥った丙が甲に覚せい剤を貸しているので、財物の占有が甲に移転したので、交付したと評価することができる。

 したがって、甲には詐欺罪が成立する。甲と詐欺罪を行うことを共謀した乙にも詐欺罪が成立し、両者は詐欺罪の共同正犯である(刑法60条、246条1項)。

乙の罪責について

 乙が丙に対する覚せい剤の返還を免れるために、殺意をもって拳銃を発砲して重傷を負わせた行為は、利益強盗殺人未遂罪にあたるか。

 利益強盗殺人罪とは、被害者を故意に殺害する目的で暴行などを加え、財産上不法の利益を得る行為である。暴行は、被害者の反抗を抑圧するに足りるものでなければならない。財産上不法の利益を得るとは、履行すべき債務を免れたり、返還義務のある物の返還を免れることによって、財産上の利益を得ることである。利益が移転するためには、権利者が権利放棄するなどの財産的処分行為は必要ではなく、事実上、義務を免れることによって、利益の移転を認めることができる。また、被害者を故意に殺害しようとして、殺害するに至らなかった場合、利益強盗殺人未遂罪が成立する。

 乙は、覚せい剤の返還を求める丙に対して、その要求を封ずるために丙を殺害しようとして拳銃を発砲し、重傷を負わせた。

 乙は丙から覚せい剤の返還を求められた。覚せい剤のような禁制品であっても、適正な手続によらずに取得しているので、乙にはそれを返還すべき義務がある。また、丙は覚せい剤の取引という不法な原因に基づいて甲に預けた(寄託した)だけなので、民法708条に規定されているように返還請求権が失われるわけではない。

 丙は、このような丙の覚せい剤の返還要求を封ずるために、故意に丙を殺害しようとして拳銃を発砲し、それに至らなかった。拳銃の発砲は丙の反抗を抑圧するに足りる。そして、それによって覚せい剤の返還を免れたといえる。ただし、丙は死亡には至らなかった。

 したがって、丙には強盗殺人未遂罪(刑法243条、240条)が成立する。甲と乙の間で丙の殺害は共謀されていなかったので、乙には強盗殺人未遂罪の単独による犯行である。

結論

 以上から、甲と乙には詐欺罪の共同正犯である(刑法60条、246条1項)。また、乙には強盗殺人未遂罪(刑法243条、240条)が成立する。

 乙に成立する詐欺罪は財物詐欺罪であり、強盗殺人未遂罪は利益強盗殺人未遂であり、各々の罪の客体と法益は異なり、2罪の成立が認められるが、1人の被害者に対して場所的・時間的に近接した状況で行われてているので、2罪は包括一罪として、利益強盗殺人未遂罪1罪が成立すると解される。

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