「文書偽造罪③」刑法論述問題の答案の書き方

文書偽造罪③

 甲は、多重債務を負担し、生活に困窮したので、「X」という架空の氏名で就職しようと考えた。
 甲は、履歴書の用紙に「X」の氏名、虚偽の生年月日、虚偽の住所等を記入したうえ、「X」と刻した印鑑を押印し、さらに甲自身の顔写真を貼付して履歴書を作成した。
 その後、甲は、当該履歴書をパソコンに画像データとして取り込み、求人案内を出していたA社ホームぺージを通じて、A社に送信した。
 後にA社人事部長Bの面接試験を受け、A社に入社した。デジタル処理された自己の顔写真つきのX名の社員証を用いて、金融機関C社D支店からX名義で30万円借りたが、当初の計画に従って期限内に利息分を含めて返済した。

 甲の罪責を論ぜよ。

論点

(1)甲が、実在しない「X」という人物を名義人とする履歴書を作成し、それに自分の顔写真を張り付けた行為は私文書偽造にあたるのか。それをA社に送信した行為が同行使罪にあたるか。

(2)A社の社員証を用いて、金融機関C社D支店から30万円借りた行為は、詐欺罪にあたるか。

(*)偽造私文書を提出して、A社の面接担当者Bの面接を受け、A社に入社した行為は、罪に問われるか(例えば、社員としての地位が財産上の利益にあたるとするならば、利益詐欺罪に問われるか)。

解答例

(1)甲がXの氏名等を記入して、履歴書を作成した行為について

1甲の行為は、私文書偽造罪、同行使罪にあたるか。

2私文書偽造罪とは、行使の目的で、他人の権利、義務などの事実証明に関する文書を偽造する行為であり、同行使罪とは、それを会社などに提出するなどして他人に交付する行為である。

3甲が、実在しない「X」という人物を名義人とする履歴書を作成し、それに自分の顔写真を張り付け、それをA社に送信した。

4私文書偽造罪における「他人の文書」とは、他人の権利、義務などの事実証明に関する文書であり、履歴書は、受験や入社など実社会において交渉するにあたって様々な事項を証明するための文書であるので、本罪における文書にあたる。

 では、架空の人物である「X」の名義の文書は「他人の文書」といえるか。「他人」が実在の人物である場合、他人名義で文書を作成することが偽造にあたることは明らかであるが、文書の社会的信用性を保護法益とする本罪においては、他人が実在の人物である場合だけでなく、架空の人物であっても、そのような人物が一般に実在していると誤信させるおそれがある限り、「他人の文書」といえる。甲が「X」の氏名などが記載された履歴書を作成した行為は、その名義人と作成者の人格的同一性に齟齬を生じさせるので、偽造にあたる。

5甲は、「X」名義の履歴書を作成し、それに印を押したので、有印私文書偽罪(刑法159条)にあたる。

 それをA社のホームページから送信した行為については、「X」名義の履歴書は「前2条の文書」(刑法161条)にあたり、それをA社のホームページから送信し、A社が受信した結果、面接が実施されているので、偽造私文書行使罪にあたる。

(2)A社の社員証を用いて、金融機関C社D支店から30万円借りた行為は、詐欺罪にあたるか。

1甲が金融機関C社D支店から30万円を借りた行為は財物詐欺罪にあたるか。

2財物詐欺罪とは、他人を欺いて財物を交付させる行為である。

3甲は、A社の社員証を用いて、金融機関C社D支店から30万円借りた。

4甲は「X」名義の履歴書を作成して、A社の入社面接を受けて採用され、「X」社員を得て、それを金融機関C社D支店に提示している。これによってD支店は甲が「X」であると錯誤に陥れられたのであるから、甲の行為は欺く行為にあたる。

 そして、錯誤に陥れられたD支店がそれに基づいて甲に30万円を貸したので、それは財物の交付にあたるといえる。

 確かに、甲は当初の計画どおり期限内に利息分を含めてC社D支店に返済しているので、財産的な損害は発生していないかにみえるが、財物詐欺罪は個別財産に対する罪であると解されているところ、他人を欺いて財物を交付させている以上、その成立は否定できないものと思われる。

5したがって、甲には財物詐欺罪が成立する。

結論

 以上から、甲には有印私文書偽造罪、同行使罪が成立する。両罪は牽連犯の関係に立つ。
 また、詐欺罪が成立する。前者の罪と後者の詐欺罪とは、併合罪の関係に立つ。

(*)「X」名義の履歴書を送って、入社面接を受けて、採用を得た場合、利益詐欺罪にあたるか

社員としての地位それ自体は財産上の利益とはいえないので、利益詐欺罪の成立は否定される。ただし、多くの企業・公務所は、履歴書などに虚偽内容が記載されている場合には、採用それ自体(雇用契約)を取り消すことが事前に告知されているので、民事的な対応によって対処可能である。

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