「文書偽造罪①」刑法論述問題の答案の書き方

文書偽造罪①

 甲は、X県から工事を請け負ったが、この工事に関しては、X県から工事完成支払金の支払いを受けるためには、工事が完成した旨の検査調書を作成させたうえ、X県知事の決済を受けなければならなかった。甲は、予定より若干工事の完成が遅れていたが、早急に金銭が必要であった。

 そこで、甲は、内容虚偽の完成を申告する書類を作成したうえ、本件工事の完成検査検査員乙に内容の真実なもののように装って提出し、本件工事が完成した旨の検査調書を作成させた。

 甲は、この調書と工事代金請求書をX県知事に提出し、工事が完成したと誤信した同県知事は代金支払の決済をした。その結果、甲は工事代金を受領した。

 そして、甲はその3ヵ月後に工事を完成させた。 後日、乙は、たまたま工事現場付近を通りかかって、工事が未完成であることを知ると、これを奇貨として、甲に「金品を支払わなければ工事が未完成であることをばらすぞ。」と脅し、甲はこれに応じた。

 甲および乙の罪責を論ぜよ。

論点

(1)甲が虚偽内容の完成を申告する書類を作成し、真実なもののように装って完成検査検査員乙に提出して、工事が完成した旨の検査調書を作成させた。

 検査調書は、どのような性質の文書であるか。検査調書とは、公共事業などを請け負った事業者が、その工事代金を国や自治体に請求する際に提出する工事完成の報告書である。

 事業者は、自治体などにその報告書を提出するためには、完成検査検査員の調査を経て、それを作成しなければならない。つまり、検査調書とは、公的な予算執行の基礎となる資料=公文書であると同時に、事業者側が工事代金を受け取る権利があることを証明する公文書=公正証書の一種である。

 このことを示したうえで、甲が検査調書の作成権限者・乙に工事完成の虚偽内容の書類を作成・提示して、工事が完成した旨の検査調書を作成させた行為が何罪にあたるのかを問題にすることになる。

(2)甲が検査調書と工事代金請求書をX県知事に提出して、工事が完成したと誤信した知事に工事代金を支払わせ、それを受領した。

 甲が、乙に虚偽内容の検査調書を作成させ、それをX県知事に提出し、工事が完成したと誤信させた行為は、詐欺罪における「欺く行為」にあたる。そして、X県知事は錯誤に陥って、甲に対して工事代金を支払り、甲がそれを受領したので、「財物の交付」にあたる。ただし、その工事代金は、甲が工事を完了した後に受け取ることのできる代金である。甲が受け取ったのが、受け取る権利のある工事代金であるならば、詐欺罪の成立は否定される。かりに詐欺罪が成立するとするならば、受け取った代金が工事代金とは別の金銭である場合でなければならない。予定されていた工事代金の受領時期よりも3ヵ月早く受け取った事実を踏まえて、X県から受領した金銭が、受け取る権利のある工事代金とは別個のものであるか否かを判断しなければならない。

(3)工事が未完成であることを知った乙が甲に対して「金員を支払わなければ工事が未完成であることをばらすぞ」と脅したところ、甲はこれに応じた。

 工事が未完成であることを知った乙が、甲を脅迫して金銭を交付させたので、これは恐喝罪にあたる。また、同時に虚偽の検査調書を作成させられたことを認識しながら、それに関して甲から金銭を受け取っているので、加重収賄罪(197条の3第2項)にあたる可能性がある。甲は乙に金銭を供与したので、贈賄罪(198条)にあたる可能性がある。

解答例

(1)甲が虚偽内容の完成を申告する書類を作成し、真実なもののように装って完成検査検査員乙に提出して、工事が完成した旨の検査調書を作成させた。

1甲の行為は、公正証書原本不実記載罪にあたるか。

2公正証書原本不実記載罪とは、

 公務員に対して虚偽の申立をして、

 登記簿、戸籍簿その他権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせる行為である。

 さらに、その不実記載された公正証書の原本を役所などに提出するなどすると、同行使罪にあたる。

3甲は、虚偽内容の完成を申告する書類を作成し、真実なもののように装って完成検査検査員乙に提出して、工事が完成した旨の検査調書を作成させた。

4工事が完成していないにもかかわらず、完成した旨の書類を作成し、それを完成検査検査員の乙に提出するのは、公務員に対して虚偽の申立をしたことにあたる。

 さらに、それによって錯誤した乙に検査調査書を作成させているが、検査調査書とは、公共事業などを請け負った事業者が、その工事代金を国や自治体に請求する際に提出する工事完成の報告書であり、工事代金を受け取る権利のあることを証明する文書、すなわち公正証書である。

5以上から、甲は完成検査検査員の乙に虚偽の申立てをして、公正証書である検査調査書を作成させたので、公正証書原本不実記載罪にあたり、後にそれをX県知事に提出しているので、同行使罪にあたる。

(2)甲が検査調書と工事代金請求書をX県知事に提出して、工事が完成したと誤信した知事に工事代金を支払わせ、それを受領した。

1甲の行為は詐欺罪にあたるか。

2詐欺罪とは人を欺いて財物を交付させる罪であり、その保護法益は個人的法益としての個人の財産である。

 国や自治体の公共事業予算は、個人の財産ではなく、国家・自治体の財産であるので、個人財産に対する罪である刑法の詐欺罪の保護は受けないと解することもできるが、公共事業予算の執行に関して、特別の刑罰法規が定められていない限り、刑法によって保護すべきである。

3甲が検査調書と工事代金請求書をX県知事に提出して、工事が完成したと誤信した知事に工事代金を支払わせ、それを受領した。

4甲がX県知事に提出した検査調査書は虚偽内容のものであり、X県知事はそれを真実であると誤信しているので、それは欺く行為にあたる。そして錯誤に陥れられて工事代金を支払っているので、財物の交付にあたる。従って、詐欺罪が成立するといえる。ただし、その工事代金は、甲が工事を完了した後に受け取ることのできる代金である。甲が受け取ったのが、受け取る権利のある工事代金であるならば、詐欺罪の成立は否定される。かりに詐欺罪が成立するとするならば、受け取った代金が工事代金とは別の金銭である場合でなければならない。甲は予定されていた受領時期よりも3ヵ月早く受け取っている。

 社会通念に照らして考えると、予定期日に受け取るために虚偽の検査調書を提出することはあっても、3ヵ月も早く受け取るということはありえないことである。そうすると、X県知事が交付した金銭は受け取る権利のある工事代金とは別個のものであると解される。

5以上から、甲には詐欺罪が成立する。

(3)工事が未完成であることを知った乙が甲に対して「金員を支払わなければ工事が未完成であることをばらすぞ」と脅したところ、甲はこれに応じた。

1工事が未完成であることを知った乙が、甲を脅迫して金銭を交付させた。この行為は、恐喝罪にあたる。

2また、同時に虚偽の検査調書を作成させられたことを認識しながら、それに関して甲から金銭を受け取っているので、加重収賄罪(197条の3第2項)にあたる可能性がある。

 加重収賄罪とは、公務員がその職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関して、賄賂を収受する行為である。乙は、虚偽内容の検査調書を故意に作成してのではないが、工事が未完成であることを知ったことによって、作成した検査調書が虚偽であることを認識したのであるから、客観的に職務上不正な行為をしたことにあたる。そして、それに関して甲から金銭を受け取っといるので、賄賂を受け取ったことにあたる。従って、加重収賄罪(197条の3第2項)にあたる。

3甲は乙の職務に関連して、金銭を供与したので、贈賄罪(198条)にあたる。

結論

 甲には、公正証書原本不実記載罪、同行使罪が成立する。両罪は牽連犯の関係にたつ。また、甲には詐欺罪が成立する。さらに、贈賄罪が成立する。それらは併合罪の関係にたつ。

 乙には、恐喝罪と加重収賄罪が成立する。これらは1個の行為で行われているので、観念的競合の関係に立つ。

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